第38回目の心ぴくです。
今回は見たい作品が多く、一日で3本梯子した日もありました。休みの日はほとんど映画館にいるという、映画オタクにますます拍車がかかってきている今日この頃です。
というわけで今回は「ジャーヘッド」「クラッシュ」「歓びを歌にのせて」「シリアナ」「ヒストリー・オブ・バイオレンス」「ブロークバック・マウンテン」「アサルト13要塞警察」「マンダレイ」「メルキアデス・エストラーダの三度の埋葬」「エミリー・ローズ」の10本です。
「ジャーヘッド」
湾岸戦争をリアルに描いたという作品です。<アメリカン・ビューティー>の監督作なので期待したのですが、やはりアメリカのメジャー系資本で作った作品なので、重要な箇所がぼかしてある印象で、何が言いたいのかわからない作品になっていたように思います。<ロード・オブ・ウォー>の爪の垢でもせんじて飲んで欲しいものですね。
「クラッシュ」
今年のアカデミー賞作品賞に輝いた作品です。出だしはとても良く、ロスの空気が伝わってくるリアルな演出なのですが、途中から偶然の連続になり、一日半の出来事としては無理があるんじゃないかと思えてきたらもうだめで、ラストのテレビ的演出には閉口しました。ただテレビの感動ものとしては良く出来ていて、近頃はやりの<泣きたい>観客にはお勧めかもしれません。
「シリアナ」
アカデミー賞助演男優賞をとったジョージ・クルーニーがCIAの破壊工作員をリアルに熱演した作品。しかしドキュメンタリーなどで見たような手垢の付いたストーリーが眠気を誘い、問題定義しているような衝撃のラストも、何をいまさらと思ってしまいました。偏向報道で何も知らされてないアメリカ人には衝撃的なのかなあ。
「ヒストリー・オブ・バイオレンス」
異才デビィッド・クローネンバーグの新作。人間の暴力性をリアルに見せるという、うたい文句に大いに期待しました。出だしはスタイリシュな演出が心地よく途中まで傑作の雰囲気が漂っていましたが、後半まるで息切れしたかのように演出が雑になり、せっかくの名優達の演技が、まるで豪華なビデオシネマを見ているように感じてしまいました。とても惜しい作品です。
「アサルト13要塞警察」
素ネタのジョン・カーペンターの作品よりも、かなり面白いアクション映画です。大雪に閉ざされた警察署に謎の集団が襲いかかる。というストーリーに登場人物の個性がしっかり演出されていて手に汗握ります。ただあまりにリアリズムを追求しすぎたために絶対殺してはならない人物を殺してしまい、それ以後の展開がかなり暗い印象を与え、ラストに爽快感がなかったことが残念です。社会派アクションなら良いのですが、あくまでもエンターテイメントの作りなのですから。とはいっても監督の次回作にかなり期待を抱かせる高水準の作品です。
「マンダレイ」
大期待した傑作<ドッグヴィル>の続編です。主人公は、役者は変えていますが前作と同じ人物で、次はどんな救世主(?)としての活躍をしてくれるのかと期待しました。
今回救うのは奴隷にされている黒人達なのですが、前作の登場人物達ほどのハッキリした個性の書き分けが出来ていない印象を持ちました。前作のような普遍的な人間の業を今度はどう見せてくれるのか期待しましたが、単なるアメリカの暗部を見せられただけの感じで終わっていました。単品では良い作品と思いますが前作が素晴らしすぎるためにこんな印象を持った映画でした。
「エミリー・ローズ」
とっても怖い実話の映画化です。悪魔に憑かれたという女の子が、悪魔祓いの途中で死んでしまいます。原因は悪魔のせいなのか、神経症で身体が弱っていた女の子を病院に入院させなかったせいなのか。その真実を裁判で争う場面は手に汗握ります。ただこの映画も社会派なのかエンターテイメントなのかはっきりしていない分、ラストでボカしてはありますが、どちらかが正しいなどと答えらしきものを出してしまっている所が、キリスト教徒ではない私には、なんだか居心地悪い映画として終わってしまった感じがしました。もっと怖さを追求したエンターメントに徹した映画(最初から悪魔が存在するという世界観で作られている<エクソシスト>のような映画)ならそれもありだと思うのですが。あまりにリアルな社会派の感じが逆効果だったと思います。
監督の次回作に期待させる惜しい力作でした。
というわけで惜しい作品が4本。そして心ぴく作品が3本という大漁の嬉しい回となりました。
選りすぐりの心ぴく作品三本は「歓びを歌にのせて」「ブロークバック・マウンテン」「メルキアデス・エストラーダの三度の埋葬」です。
「歓びを歌にのせて」
スウェーデン映画です。有名なオーケストラ指揮者が身も心もボロボロになり故郷の村に帰ってくるところから話が始まります。題名からして何だかとっつきずらい芸術家の話を想像されるかもしれませんが全然ちがいます。とても面白い映画です。その天才的な指揮者が成り行きで指揮することになる村の合唱団のメンバーが個性的でとても面白くかき分けられているのです。それぞれがスウェーデンの国柄などに関係なく、人間として共通の、普遍的な悩みを抱えて生きています。人づきあいの難しさや夫婦の問題、田舎の閉鎖性。
日本に無いのは教会のもつ強い力だけでしょうか。
そんな感情移入がどっぷりできてしまう登場人物たちの傷ついた心を、歌が癒してくれる様子を丁寧に、時には笑いも交えて描いていきます。主人公の指揮者が心を病んだ原因も芸術的な悩みなどではなく、とても人間的なもので、それがラストの悲劇的だが幸福感が残る見事な場面に繋がっていき、見終わったあとの満足感は半端なものではありませんでした。傑作です。上映されない地区も多いでしょうから、是非ともレンタル店で探してみてください。面白さと感動保証の心ぴく作品です。
「ブロークバック・マウンテン」
カウボーイ同士の20年に渡る愛の物語です。とても刺激的なシーンが展開しますが、
いわゆるゲイについて深く考察する映画でもなく、面白半分の見世物映画でもないところが私を心ぴくさせました。
差別というものを真正面から描いた映画だと思えたのです。
自分と違ったものを受け入れず軽蔑したり怖がったりする心の貧しさを観客に突きつけることに成功していると思いました。
こんなもの見たくも無いと思わせる映画は、明らかにその人の心の中の何かに触れているものなのです。だから必要以上にそれを嫌うのではないでしょうか。差別している自分がわかってしまうとか、少しでもそういう感情が心のそこにあるのを発見するのが怖いとか。
そういう感覚を持っている人に無理矢理勧めませんが、とてもよく出来た映画です。
感動的でもあります。
一種のサバイバル映画でもありサスペンス映画でもあります。この映画では、閉鎖的なテキサスでは1960年代、ゲイの人々がリンチにあい虐殺されたと描いていますが、
おそらくホントウの事なのでしょう。黒人のリンチが公然の事実だった時代ですから容易に想像が出来ます。そんな中での男同士の恋愛です。
ある意味手に汗握る展開です。その性癖がばれると死を意味するわけですから。
そんな追い詰められた感情が自然に胸を打ち、2人にしっかり感情移入してしまいました。
とても上手い映画です。主演の2人の演技だけでなく脇役や大自然の風景が、荒野で自由に生きることの難しさや、人間の業まで描いていて一つの色を持った作品として成功していると思いました。私は傑作だと思います。お勧めの心ぴく作です。
「メルキアデス・エストラーダの三度の埋葬」
これもカウボーイの話です。舞台は現代のテキサス州の国境地帯です。
ピートという中年カウボーイと不法入国のメキシコ人メルキアデスが親友になりますが、ちょっとしたまちがいでメルキアデスは若い国境警備隊員に射殺されてしまいます。隊員は死体を現場に埋めて隠しますが発見され、犯人探しが始まります。警察や国境警備隊は犯人をかくまいますがピートはそれを知り、メルキアデスとの約束を守るために犯人を拳銃で脅し拉致して、メルキアデスの死体を掘り起こし、メルキアデスの故郷のヒメネスに旅立ちます。というお話で、男の友情と男の無骨な生き方を描いた、まさに近頃珍しい男くさい映画です。
主演と監督を、私のお気に入りの俳優トミー・リー・ジョーンズが渋くこなしています。
警官達から逃れ、拉致した若い国境警備隊員と死体を連れた国境越えの旅が圧巻です。
馬一匹がやっと通れる断崖の上の道を行くシーンは息を飲む迫力です。この場面一つみても、トミー・リーは監督としても一流ということがわかります。
そして徐々に腐ってゆく親友の死体に敬意をはらうピートの行動を、けっしてグロテスクにならず、不器用で孤独な男の姿を浮かび上がらせ、胸に迫る場面にしているところは見事としか言えません。
男という生物は、一文の特にもならないことに命をかけてしまう馬鹿であり、しかしそれが男として最も重要な事だとあらためて分からせてくれるそんな映画です。
ラストの余韻を持った至福感が胸を打ちます。
一途な男達のこっけいさ、哀れさ、そして素晴らしさを描いている傑作です。
悩みを持って生きているお父さんたちには特にお薦めの作品です。必ず心を軽くしてくれると思います。ミニシアター系映画なので見ることが出来ない地区の人は是非ビデオで借りてみてください。心の深いところで感動させてくれる、まさに大道を行く心ぴく映画です。
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