心ぴくコーナー

このコーナーは、私(巻来功士)が、今月見た映画の中で、心臓がピクピクするほど感動及び興奮、または憤慨?した作品を紹介するコーナーです。

第40回 <嫌われ松子の一生> 2006.06.19

第39回 <プロデューサーズ> 2006.05.03

第38回 <歓びを歌にのせて><ブロークバック・マウンテン><メルキアデス・エストラーダの三度の埋葬> 2006.03.22

第37回 2005年版巻来功士的映画ベスト10 2006.02.21

第36回 <ロード・オブ・ウォー><キング・コング> 2006.01.18

第41回〜第45回 第31回〜第35回 第26回〜第30回

第21回〜第25回 第17回〜第20回 第13回〜第16回

第9回〜第12回 第5回〜第8回 第1回〜第4回

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<嫌われ松子の一生>

嫌われ松子の一生

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第40回目の心ぴくコーナーです。
今回は、「」・フォー・ヴェンデッタ」「アンダーワールド:エボリューション」「ニュー・ワールド」「グッドナイト&グッドラック」「ピンクパンサー」「ロンゲスト・ヤード」「ブロークン・フラワーズ」「ナイロビの蜂」「ジャケット」「嫌われ松子の一生」「アローン・イン・ザ・ダーク」「ブギーマン」「インサイドマン」13本です。
今月、というかこの1月半は中半、身体の調子が悪かったのですが、前半と後半2〜3本見て本数を稼がせてもらいました。

「Vフォー・ヴェンデッタ」
独裁政権に復讐するテロリストを主人公に描いたアクション映画。イラク戦争が泥沼化し人々が嫌気をさしている環境が作らせている映画だと思う。出来ればイギリスが舞台ではなく、アメリカ本国を舞台にして欲しかった。でも悪の巣窟と化したホワイトハウスを吹っ飛ばすなんて無理な話か・・。ということはビッグベンを吹き飛ばさせたイギリスの方がまだ民主的だということなのか?

「アンダーワールド:エボリューション」
<アンダーワールド>の完璧な続編。前作が終わった直後から話が始まるので、前作を見てないか忘れた人には訳が分からない。私もなんとか記憶の糸を手繰り寄せて理解することが出来た。絵作りは前作同様、いやそれ以上にゴシックホラーの雰囲気が出て素晴らしい。
監督の意気込みが感じられる。只ラストがものすごい敵相手なのに、あっさりしすぎたように思う。ホラーアクションファンには一見の価値ある佳作。

「ニュー・ワールド」
好きな映画、<シン・レッド・ライン>のテレンス・マリック監督の新作。相変わらず
自然描写が美しい。ネイティブ・アメリカンとイギリス人の恋愛を描いているが、異文化の交流の難しさを描くリアルな前半が面白く、後半は少し心象風景に逃げた感じがした。
面白かったが、意外と心に残らなかった作品。

「グッドナイト&グッドラック」
1950年代に吹き荒れたマッカーシズム(赤狩り)に敢然と立ち向かったニュースキャスター、エド・マローと仲間達の行動を白黒のドキュメントタッチでつづった佳作。
生活描写、世間の風景を一切削り、ほとんどが局内と実際のニュースフィルムだけの演出は、硬質な社会問題作としての雰囲気が出ているが、赤狩りの事実を詳しく知らない人、いや知っている人にもその怖さが現実のものとして伝わってこない所が少し弱い所だと思う。

「ピンクパンサー」
前作のピンクパンサーシリーズファンではなく、主演のスティーブ・マーティンが見たくていった映画。面白かったです。

「ロンゲスト・ヤード」
尊敬する故ロバート・アルドリッチ監督の名作のリメイク。前作と全くといっていいほど同じ。違いは俳優だけ。ストーリーが面白いのは保障済みだが只それだけという感じ。
高校生の時に感動してみた前作がとても見たくなった。

「ブロークン・フラワーズ」
とても苦手なアート系監督ジム・ジャーミッシュの最新作。自分に息子がいることを知り、合いに行く中年男のロードムービー。最後のシーンが唸らされる。只ソレまでが長い。
ジャーミッシュファン必見作。

「ナイロビの蜂」
社会派ドラマだと思ったらハードボイルドだった。男がただ自分の求める真実と死に場所を求めてアフリカを旅する話。謎の部分はありきたりだが、最後の場所にたどり着く主人公の気持ちにはグッときた。佳作です。

「ジャケット」
拘束衣を着せられて閉じ込められるとタイムスリップするアイデアは抜群。
最後までしっかり楽しませてくれる。只ラストに深いものが欲しかったかも・・。

「アローン・イン・ザ・ダーク」
ゲームの映画化らしい。お気に入りだったクリスチャン・スレーター主演だから見ました。
ズバリ、ナンジャコリャの作品。無茶苦茶でもいいからコレはすごいという映像を一箇所でも入れて欲しかった。

「ブギーマン」
中々怖くて面白かったが、あまりにも最後の尻切れトンボ感が強くて、途中のどこでもドアを使った面白いアイデアが帳消しになってしまった感じ。終わり方にもう一工夫ほしかった。

「インサイドマン」
社会派監督スパイク・リーとアカデミー賞スター。デンゼル・ワシントン。ジョディー・フォスターが組んだ期待作。しかしこちらが期待しすぎたためなのか、中盤までの刺激が少ない演出につい眠たくなってしまいました。終わってみれば軽い銀行強盗物を作りたかった監督の気持ちが分かり納得しました。<ホットロック>みたいな感じかな。
それならそういうものを期待して見れば楽しめたのかなと思いましたが、それでも中盤までの演出は成功していないと思うのですがどうでしょうか。

ということで第40回目の心ぴく映画は…

「嫌われ松子の一生」です。
日本映画には珍しく、深刻な話をブラックな笑いに包んで演出した傑作です。
近頃の、テレビファンしか相手にしていない映画館でかかるテレビ映画とはぜんぜん違う、本物の映像作家が作り出した独特の世界は強烈で、この中島哲也監督の前作、佳作<下妻物語>よりパワーがあったように思います。画面にアニメで花が咲き乱れるシーンと香川照之に代表されるシリアスな演技の落差も心地よくはまってしまいました。特に松子の笑ってしまう癖の理由が、父親とのシリアスな関係にあったというところは近頃の、他のどの国の映画にもなかったほどのシニカルなペーソス感があり強烈に心を揺さぶられました。とにかく今まで日本映画では見たことのない映画のタイプで、大好きな監督ロバート・アルトマンやマーティン・スコセッシの作品を思い出しました。ただラストの演出を過剰にせず乾いたタッチで切り上げれば大傑作になったと思うのですがどうでしょう。下妻・松子と2本連続で傑作を作る監督は近ごろ日本映画界では珍しく、次回作がとても楽しみです。日本映画の未来さえ明るく見えてくる心ぴく映画です。

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<プロデューサーズ>

プロデューサーズ

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第39回目の心ぴくです。
今回はグッと少なく「プロデューサーズ」「リバティーン」「キスキス、バンバン」「寝ずの番」「ファイヤーウォール」「ウェス・クレイブン,sカースド」の6本です。

「リバティーン」
17世紀の実在した貴族ロチェスタ―伯爵をジョニー・デップが嬉々として演じています。ポルノ的演劇で物議をかもした人物の話です。前半は描き方が平板なのと、画面が一本調子なのとで眠くなりましたが、後半デップの変わりようは凄まじく画面に見入ってしまいました。当時のロンドンの猥雑さがよく出て、雰囲気を盛り上げている映画でした。

「キスキス、バンバン」
泥棒とゲイの探偵がハリウッドの殺人事件を解決するコンセプトはすごく面白く、一つ一つのエピソードも楽しませてくれましたが、ラストの派手な撃ち合いが雰囲気を壊していたのか、それともお遊びがすぎるエンディングが鼻に付いたのか、乗れない印象で終わってしまいました。惜しい作品です。

「寝ずの番」
絶対テレビでは放送できない所がすごいといえば言える映画。
ただ衝撃は最初の方だけで徐々に尻すぼみの感も。映画館でないと見られない映画を作ったという志の高い映画でした。

「ファイヤーウォール」
70年代〜80年代のアクション映画を彷彿とさせる桂作。60歳の肉体を不器用に動かし家族を助けようとするハリソン・フォードがリアルで中々良く、拾い物のアクション映画でした。

「ウェス・クレイブン,sカースド」
狼人間物コメディー。期待したほどはじけていなかった印象です。吸血鬼コメディーだが(フライト・ナイト)は面白かったなあ。

というわけで第39回目の心ぴく映画は

「プロデューサーズ」です。
コメディーの大御所メル・ブルックスのミュージカルです。ナチネタ、差別ネタのオンパレードが逆に太っ腹のような印象を与えるのは相変わらずで、監督の気骨を見たような映画でした。正確に言うメル・ブルックスは舞台の監督であり、この映画は珍しく他人が監督しているのですが、メル・ブルックス節は健在で生き生きした映画になっていました。
差別ネタが笑えるのも、弱者に対する温かいまなざしが画面から溢れているからであるということを改めて感じました。それと同時に権力者への鋭い批判精神も健在で、ふとチャップリンを思い出したほどです。とにかく楽しい映画です。何も考えずに笑って温かい気持ちになりたい方にはお薦めの一本です。

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<歓びを歌にのせて>
<ブロークバック・マウンテン>
<メルキアデス・エストラーダの三度の埋葬>

<歓びを歌にのせて> <ブロークバック・マウンテン> <メルキアデス・エストラーダの三度の埋葬>

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第38回目の心ぴくです。
今回は見たい作品が多く、一日で3本梯子した日もありました。休みの日はほとんど映画館にいるという、映画オタクにますます拍車がかかってきている今日この頃です。
というわけで今回は「ジャーヘッド」「クラッシュ」「歓びを歌にのせて」「シリアナ」「ヒストリー・オブ・バイオレンス」「ブロークバック・マウンテン」「アサルト13要塞警察」「マンダレイ」「メルキアデス・エストラーダの三度の埋葬」「エミリー・ローズ」の10本です。

「ジャーヘッド」
湾岸戦争をリアルに描いたという作品です。<アメリカン・ビューティー>の監督作なので期待したのですが、やはりアメリカのメジャー系資本で作った作品なので、重要な箇所がぼかしてある印象で、何が言いたいのかわからない作品になっていたように思います。<ロード・オブ・ウォー>の爪の垢でもせんじて飲んで欲しいものですね。

「クラッシュ」
今年のアカデミー賞作品賞に輝いた作品です。出だしはとても良く、ロスの空気が伝わってくるリアルな演出なのですが、途中から偶然の連続になり、一日半の出来事としては無理があるんじゃないかと思えてきたらもうだめで、ラストのテレビ的演出には閉口しました。ただテレビの感動ものとしては良く出来ていて、近頃はやりの<泣きたい>観客にはお勧めかもしれません。

「シリアナ」
アカデミー賞助演男優賞をとったジョージ・クルーニーがCIAの破壊工作員をリアルに熱演した作品。しかしドキュメンタリーなどで見たような手垢の付いたストーリーが眠気を誘い、問題定義しているような衝撃のラストも、何をいまさらと思ってしまいました。偏向報道で何も知らされてないアメリカ人には衝撃的なのかなあ。

「ヒストリー・オブ・バイオレンス」
異才デビィッド・クローネンバーグの新作。人間の暴力性をリアルに見せるという、うたい文句に大いに期待しました。出だしはスタイリシュな演出が心地よく途中まで傑作の雰囲気が漂っていましたが、後半まるで息切れしたかのように演出が雑になり、せっかくの名優達の演技が、まるで豪華なビデオシネマを見ているように感じてしまいました。とても惜しい作品です。

「アサルト13要塞警察」
素ネタのジョン・カーペンターの作品よりも、かなり面白いアクション映画です。大雪に閉ざされた警察署に謎の集団が襲いかかる。というストーリーに登場人物の個性がしっかり演出されていて手に汗握ります。ただあまりにリアリズムを追求しすぎたために絶対殺してはならない人物を殺してしまい、それ以後の展開がかなり暗い印象を与え、ラストに爽快感がなかったことが残念です。社会派アクションなら良いのですが、あくまでもエンターテイメントの作りなのですから。とはいっても監督の次回作にかなり期待を抱かせる高水準の作品です。

「マンダレイ」
大期待した傑作<ドッグヴィル>の続編です。主人公は、役者は変えていますが前作と同じ人物で、次はどんな救世主(?)としての活躍をしてくれるのかと期待しました。
今回救うのは奴隷にされている黒人達なのですが、前作の登場人物達ほどのハッキリした個性の書き分けが出来ていない印象を持ちました。前作のような普遍的な人間の業を今度はどう見せてくれるのか期待しましたが、単なるアメリカの暗部を見せられただけの感じで終わっていました。単品では良い作品と思いますが前作が素晴らしすぎるためにこんな印象を持った映画でした。

「エミリー・ローズ」
とっても怖い実話の映画化です。悪魔に憑かれたという女の子が、悪魔祓いの途中で死んでしまいます。原因は悪魔のせいなのか、神経症で身体が弱っていた女の子を病院に入院させなかったせいなのか。その真実を裁判で争う場面は手に汗握ります。ただこの映画も社会派なのかエンターテイメントなのかはっきりしていない分、ラストでボカしてはありますが、どちらかが正しいなどと答えらしきものを出してしまっている所が、キリスト教徒ではない私には、なんだか居心地悪い映画として終わってしまった感じがしました。もっと怖さを追求したエンターメントに徹した映画(最初から悪魔が存在するという世界観で作られている<エクソシスト>のような映画)ならそれもありだと思うのですが。あまりにリアルな社会派の感じが逆効果だったと思います。
監督の次回作に期待させる惜しい力作でした。

というわけで惜しい作品が4本。そして心ぴく作品が3本という大漁の嬉しい回となりました。

選りすぐりの心ぴく作品三本は「歓びを歌にのせて」「ブロークバック・マウンテン」「メルキアデス・エストラーダの三度の埋葬」です。

「歓びを歌にのせて」
スウェーデン映画です。有名なオーケストラ指揮者が身も心もボロボロになり故郷の村に帰ってくるところから話が始まります。題名からして何だかとっつきずらい芸術家の話を想像されるかもしれませんが全然ちがいます。とても面白い映画です。その天才的な指揮者が成り行きで指揮することになる村の合唱団のメンバーが個性的でとても面白くかき分けられているのです。それぞれがスウェーデンの国柄などに関係なく、人間として共通の、普遍的な悩みを抱えて生きています。人づきあいの難しさや夫婦の問題、田舎の閉鎖性。
日本に無いのは教会のもつ強い力だけでしょうか。
そんな感情移入がどっぷりできてしまう登場人物たちの傷ついた心を、歌が癒してくれる様子を丁寧に、時には笑いも交えて描いていきます。主人公の指揮者が心を病んだ原因も芸術的な悩みなどではなく、とても人間的なもので、それがラストの悲劇的だが幸福感が残る見事な場面に繋がっていき、見終わったあとの満足感は半端なものではありませんでした。傑作です。上映されない地区も多いでしょうから、是非ともレンタル店で探してみてください。面白さと感動保証の心ぴく作品です。

「ブロークバック・マウンテン」
カウボーイ同士の20年に渡る愛の物語です。とても刺激的なシーンが展開しますが、
いわゆるゲイについて深く考察する映画でもなく、面白半分の見世物映画でもないところが私を心ぴくさせました。
差別というものを真正面から描いた映画だと思えたのです。
自分と違ったものを受け入れず軽蔑したり怖がったりする心の貧しさを観客に突きつけることに成功していると思いました。
こんなもの見たくも無いと思わせる映画は、明らかにその人の心の中の何かに触れているものなのです。だから必要以上にそれを嫌うのではないでしょうか。差別している自分がわかってしまうとか、少しでもそういう感情が心のそこにあるのを発見するのが怖いとか。
そういう感覚を持っている人に無理矢理勧めませんが、とてもよく出来た映画です。
感動的でもあります。
一種のサバイバル映画でもありサスペンス映画でもあります。この映画では、閉鎖的なテキサスでは1960年代、ゲイの人々がリンチにあい虐殺されたと描いていますが、
おそらくホントウの事なのでしょう。黒人のリンチが公然の事実だった時代ですから容易に想像が出来ます。そんな中での男同士の恋愛です。
ある意味手に汗握る展開です。その性癖がばれると死を意味するわけですから。
そんな追い詰められた感情が自然に胸を打ち、2人にしっかり感情移入してしまいました。
とても上手い映画です。主演の2人の演技だけでなく脇役や大自然の風景が、荒野で自由に生きることの難しさや、人間の業まで描いていて一つの色を持った作品として成功していると思いました。私は傑作だと思います。お勧めの心ぴく作です。

「メルキアデス・エストラーダの三度の埋葬」
これもカウボーイの話です。舞台は現代のテキサス州の国境地帯です。
ピートという中年カウボーイと不法入国のメキシコ人メルキアデスが親友になりますが、ちょっとしたまちがいでメルキアデスは若い国境警備隊員に射殺されてしまいます。隊員は死体を現場に埋めて隠しますが発見され、犯人探しが始まります。警察や国境警備隊は犯人をかくまいますがピートはそれを知り、メルキアデスとの約束を守るために犯人を拳銃で脅し拉致して、メルキアデスの死体を掘り起こし、メルキアデスの故郷のヒメネスに旅立ちます。というお話で、男の友情と男の無骨な生き方を描いた、まさに近頃珍しい男くさい映画です。
主演と監督を、私のお気に入りの俳優トミー・リー・ジョーンズが渋くこなしています。
警官達から逃れ、拉致した若い国境警備隊員と死体を連れた国境越えの旅が圧巻です。
馬一匹がやっと通れる断崖の上の道を行くシーンは息を飲む迫力です。この場面一つみても、トミー・リーは監督としても一流ということがわかります。
そして徐々に腐ってゆく親友の死体に敬意をはらうピートの行動を、けっしてグロテスクにならず、不器用で孤独な男の姿を浮かび上がらせ、胸に迫る場面にしているところは見事としか言えません。
男という生物は、一文の特にもならないことに命をかけてしまう馬鹿であり、しかしそれが男として最も重要な事だとあらためて分からせてくれるそんな映画です。
ラストの余韻を持った至福感が胸を打ちます。
一途な男達のこっけいさ、哀れさ、そして素晴らしさを描いている傑作です。
悩みを持って生きているお父さんたちには特にお薦めの作品です。必ず心を軽くしてくれると思います。ミニシアター系映画なので見ることが出来ない地区の人は是非ビデオで借りてみてください。心の深いところで感動させてくれる、まさに大道を行く心ぴく映画です。

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0055版巻来功士的映画ベスト10

2005年版巻来功士的映画ベスト10

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第37回目の心ぴくです。恒例の「2005年版巻来功士的映画ベスト10」も発表します。

今月は去年と同じように風邪をひいて寝込んでしまいました。どうも正月明けの、この時期は疲れが出やすいようです。皆さんも気をつけてください。
それでも去年より軽くすんだせいか、長く寝込まなかったおかげで8本の映画を観ることができました。
「ある子供」「スタンドアップ」「ホテル・ルワンダ」「イノセント・ボイス/12歳の戦場」「ミュンヘン」「フライトプラン」「悪魔の棲む家」「タブロイド」です。

「ある子供」
2004年の巻来功士的映画ベスト6位に輝く<息子のまなざし>の監督作のベルギー映画です。<息子のまなざし>より柔らかいタッチになりましたがドキュメンタリーの雰囲気は健在。かなり痛い胸に刺さる映画になっています。心ぴく決定。

「スタンドアップ」
シャーリーズ・セロン主演の実話モデルのセクハラ裁判映画。結末は娯楽アメリカ映画の大道をいっていますが途中の見せ方が上手く、どっぷり感情移入してしまいました。娘と父親の関係につい涙をポロリ。というわけで、心ぴく決定。

「ホテル・ルワンダ」
実話です。1994年日本ではまだバブルの燃えカスで皆が浮かれていた頃、100日で100万人が殺されたといわれているアフリカ・ルワンダの内戦を描いています。
ホラー映画より怖いです。ルワンダをかつて植民地にしていた白人が、勝手に決めた民族の優劣が憎悪の源となり、ここまでの虐殺を起こさせてしまう。まさに恐怖です。
そして追い討ちをかけるように世界に見捨てられる恐怖が襲います。虐殺を見過ごし帰っていく各国の平和維持軍の非常さ。それは明らかに豊かさにあぐらをかき、脳みそを停止させた我々先進国民とうぬぼれている者達の良心を突き刺します。我々の国のどこが情報先進国なのでしょうか?パソコンを覗いても重要な情報などなく思考停止の横並びの情報ばかり(近頃はニュース番組で芸能情報までやっています)、100万人もの人が殺された事実を誰も知らないなんて恐怖を超えています。そんなことを考えさせる作品です。
ひとりのホテルマンが家族を守るために、そしてホテルに逃げ込んできた避難民を救うために孤独な戦い(もちろん武器など使わず口八丁・手八丁というのがスゴイ)を繰り広げます。その描写が手に汗握るサスペンス映画にもなっているという、まれに見る傑作娯楽映画としての側面も持っているのです。とにかく見て損はありません保障します。それに付け加えてうれしかったのが最後まで残り、主人公に協力する国連軍の無骨で正義感溢れる指揮官を<タッチ・ダウン><48時間>の好漢ニック・ノルティーがやっていたところです。近頃悪役や精神を病んだ人間ばかりやっていて寂しく思っていたのですがやっぱりノルティーはこうでなくちゃあと1人溜飲を下げました。
誤解を恐れずに言います。すごくおもしろいサスペンス映画の傑作です。
そして考えさせてくれます。超お薦めの心ぴく映画です。

「イノセント・ボイス/12歳の戦場」
これも実話の映画化で1990年代前半まで続いた南米エルサルバドルの内戦を描いています。
12歳になると徴兵されていく子供達の圧倒的な恐怖感が伝わってくる演出がすごいです。
それもそのはずで、12歳で徴兵を逃れてアメリカに渡った本人が脚本を担当しているのです。
とにかく臨場感は半端でなく戦争とはこういう物だと実感できる傑作に仕上がっています。
母と息子の関係に涙しました。ただアメリカとの関係がはっきりと描かれていないので、
詳しく知りたい方は、オリバー・ストーン監督の傑作「サルバドル」を観ると背景が良く判ります。ホラー映画より怖い戦争の実態も・・・。心ぴく決定。

「ミュンヘン」
これも実話です。ミュンヘン・オリンピックでイスラエルの選手11人が「黒い九月」のテロによって殺される所から話が始まります。その報復としてイスラエルのモサドがパレスチナの指導者らしき(?)人々を暗殺してゆく姿をリアルに描いていきます。この作品は前記の「ホテル・ルワンダ」とちがい全く感情移入できません。スピルバーグはそういうドキュメントタッチを狙ったのでしょうがうまくいっているとは思えません。
感情移入を意識的に廃した作品ならそれで良いのです。そういう硬質な作り方は逆に観客を釘付けにします。つまり観客に媚びない、ぶれない作り方が共感を覚えるのです。
スピルバーグはもともと娯楽映画の名監督です。観客に楽しんで欲しいとサービス満点の演出を得意としています。その癖が、この硬質に撮ろうとしている映画にぶれを生じさせているのです。それが、主人公が見てもいないテロ現場をまるで回想しているように所々に入れているシーンです。これは観客サービス演出以外の何物でもありません。
こんなサービスシーンは硬質なドキュメントタッチをぶち壊します。
スピルバーグの近頃の映画が今ひとつなのはこれが原因と思えてなりません。
<宇宙戦争>のやけにリアルな人間のパニック状態とラストのあっけなさ。<マイノリティー・リポート>のリアルな未来感と陳腐な推理ドラマのような盛り上がらない真犯人の登場のしかた。<A.I>の残虐なロボット殺戮ショーとまるで御伽噺のようなラスト
他にもありますが全てがチグハグな印象なのです。
色々書きましたが、今までの映画より「ミュンヘン」は上手くいっているほうだと思います。後に重いものを残すいい映画だと思います。
ただ<ジョーズ><激突><未知との遭遇><レイダース・失われたアーク>の大ファンの私としては、問題作や社会派映画など、似合わぬことはもうやめて原点に戻り、次回作は是非とも大娯楽サスペンスアクション映画を撮ってくれることを期待します。

「フライトプラン」
どう撮っても、はずれはないような密室航空機サスペンス映画の大愚作。
わざと盛り上げないように撮っているとしか思えない後半は特にすごい。
ジョディー・フォスター主演の前作<パニック・ルーム>が超大傑作に見える。

「悪魔の棲む家」
近頃、アメリカン・ホラーは作家性がある良い作品を連発するだけに、なおさら平凡な作品に見えてしまう映画。たいした映画ではないが1970年代のオリジナルの方がまだ良い。

「タブロイド」
猟奇殺人犯のスクープを狙う記者と犯人の話だが、それよりも興味をそそられるのは舞台の中南米のリアルな描写。それが事件のフィクション性より勝っていて少しチクハグな印象がする。リアル感は見て損はないと思います。

というわけで今回は「ホテル・ルワンダ」「ある子供」「イノセントボイス/12歳の戦場」「スタンドアップ」の大漁4本の心ぴくという嬉しい月になりました。

来月も期待しつつ2005年度 巻来功士的映画ベスト10を発表します。

第1位 「愛についてのキンゼイ・レポート」

同・第1位 「ロード・オブ・ウォー」

第3位 「キング・コング」

第4位 「ホステージ」

第5位 「イン・ハー・シューズ」

第6位 「スタ―・ウォーズ エピソード3/シスの復讐」

第7位 「終わらない物語・アビバの場合」

第8位 「キングダム・オブ・ヘブン」

第9位 「蝋人形の館」 心ぴく映画に昇格

10位 「Uボート・最後の決断」 心ぴく映画に昇格

という訳で2005年度は、9・10位と再考して心ぴく映画だった。というものが出てきたおもしろい年になりました。2本とも、もう一度みたいと思わせる職人技の映画だと思います。
2006年の今年は、アメリカ映画がCG多用映画から脱却して、鋭い人間ドラマを連発する予感がします。期待の一年です。
日本映画も願わくば、「軽く泣けて、後はスッキリ何も残らない映画」ばかりではなく深い人間ドラマが出てくることを期待します。
では2006年も、映画オタクの私が満足する良い年でありますように。合掌。

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<ロード・オブ・ウォー><キング・コング>

ロード・オブ・ウォー、キング・コング

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第36回目の心ぴくコーナーです。
今回は正月に少し休めたので11本の映画を見ることが出来ました。
「ALWAYS 三丁目の夕日」「ハリー・ポッターと炎のゴブレット」「Mr.&Mrs.スミス」「ミート・ザ・ペアレンツ2」「DEAR WENDY ディア・ウェンディ」「ザスーラ」「ロード・オブ・ウォー」「キング・コング」「男たちの大和 YMATO」「チキン・リトル」「ダウン・イン・ザ・バレー」です。

「ALWAYS 三丁目の夕日」作品に感情移入するまで時間がかかった映画。最初の方の濃い漫画的演出が後半になって薄くなっていき、やっと慣れてくる。ウームこれが今大絶賛の日本映画か。
「ハリー・ポッターと炎のゴブレット」シリーズ全部子どもと一緒に見ているがやっぱりノレナイ。
「Mr.&Mrs.スミス」期待していなかったがナカナカ面白かった。60年代の犯罪コメディーの匂いを感じたのは私だけだろうか?
「ミート・ザ・ペアレンツ2」深夜テレビでやっていた1がなかなか面白かったので劇場まで足を運んだ。1ほどではなかった。
「DEAR WENDY ディア・ウェンディ」<ドッグヴィル>の監督ラース・フォン・トリアーの脚本と言うことにひかれて行った映画。どうもパッとしなかった。
「ザスーラ」子どもと行った。<ジュマンジ>のほうが面白かった。
「男たちの大和 YMATO」前半は軍隊の描き方が英雄話のようでリアリティーを感じなく、席を立とうかと思ったが後半俄然面白くなり70年代の日本の大作映画のパワーが感じられ懐かしかった。ただ欲を言えば傑作<戦争と人間>並みの腹の据わり方で撮ってほしかった。
「チキン・リトル」
子どもと観た。ディズニーが作ったピクサー作品のような映画。それ以上でもそれ以下でもなし。
「ダウン・イン・ザ・バレー」お気に入りの俳優エドワード・ノートン(「25時」「レッド・ドラゴン」)主演ということで観に行った。最初から最後まで主人公に感情移入できなかった。異常なのは良いが、人物描写がそれだけでは、薄っぺらい印象がしてしまう。監督は大傑作「タクシードライバー」みたいな映画でも撮りたかったのだろうか?それにしては深みがないなあ・・・。

と言うわけで第36回目の心ぴく映画は「ロード・オブ・ウォー」「キング・コング」
の2本です。

「ロード・オブ・ウォー」傑作です。これこそ70年代のアメリカン・ニューシネマをこよなく愛する私が求めていた映画です。
鋭い政治批判、社会批判を娯楽というオブラートで包み、見終わった後で深いものを心に残す映画。まさにアメリカン・ニューシネマの復活です。
この映画の傑作たる所以は、そのリアリズムにあります。人物描写のリアリズムです。
陳腐な娯楽映画のように、単純な善悪で人物を書き分けていなくて、あらゆる側面の中で変わっていく人間の姿をしっかりと捉えているのです。主人公とその弟の生き様が、人間の業の深さを的確に表していて素晴らしく、感動しました。
主人公の武器商人役は、ニコラス・ケイジでなくては駄目だと思うほどはまっていて、この役者の上手さを再確認させられます。
大げさな演技などせず淡々と人間の弱さ、したたかさ、残酷さを表現する演技力には他の男性俳優の追随を許さない風格さえ見えるのです。
これは脚本・監督のうまさにも言えることで、腹が据わったいい映画とはこういうものだというお手本にもなりそうなほどです。
アメリカ人の脚本・監督作でありながらアメリカ資本が全く入ってないことに驚かされましたが、それがこの映画を稀有なものにしています。
国の思想から全くの自由というものを勝ち取っているのです。だから批判精神は半端じゃありません。主人公が武器を売り歩く戦場の悲惨な姿をキチンと見せた後で、本当の
真犯人を告発するのです。悲劇を世界にばら撒くのは、戦争を広める張本人は誰かという事をしっかりと画面に向かって主人公のニコラス・ケイジに語らせているのです。
これを見て私は本当に嬉しくなりました。アメリカ人監督達が目覚めつつあると、70年代のアメリカン・ニューシネマのように、権力の腐敗を普通の人々にわかりやすい娯楽映画として発信する。そんな制作活動が盛んになりつつあるんだなと。
2006年はそんな気骨があるアメリカ映画が数多く作られるという嬉しい確信を私に与えてくれた記念碑的傑作。それがこの「ロード・オブ・ウォー」です。
主人公がはっきりと告発する真犯人を知りたい人は是非とも劇場に足を運んでください。
この映画が日本で作られる状況が来たら日本の未来が明るいものになる。そんな踏み絵になるような映画だと思います。

「キング・コング」単純に楽しめました。
3時間がまったく長く感じられませんでした。そんな映画は久しぶりです。
さすがはピーター・ジャクソン。きわもの映画に品格を与える名監督という私の勝手な評価はどうやら間違ってはなかったようです。どこかの評論家はコングが出てくるまで長すぎると書いていましたが私はそうは思いません。
その時のしっかりした人物描写があるおかげで、コングが出てきた後も人間に感情移入できて陳腐な怪獣バトル物にはならず踏み止まっているのです。
私が映画の好き嫌いを決める基準の一つは、忘れられないシーンがあるということです。
この映画でもそんなシーンがいくつかありました。
船が髑髏島の岸壁に激突しそうになるシーン、妖虫の群れが船員を襲うシーン、夕日のシーン、その中でも私が一番気に入ったシーンは、コングがクロロホルムで眠らされそうになりながらもヒロインをもとめて小船に襲いかかる海岸の洞穴のシーンです。
何故そんなに好きかと聞かれればハッキリとはしませんが、昔、何かで見た冒険小説の挿絵そのもののような構図が私の琴線に触れたのかもしれません。
そうです。この映画は幼い時から円谷版怪獣映画が好きでアメリカのSFドラマや、イギリスのハマープロのホラー・冒険・SF映画にハマっていた私にとってプレゼントのような映画だったのです。ありがとうピーター・ジャクソン監督。とっても楽しめました。
お薦めです。面白いですよ。

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