第28回目の「心ぴく」です。
今回は6本しか劇場で映画を見ることができませんでした。
しかし、1本を除きどれもなかなかに面白く、作家性が強く出た個性的な私好みの作品ばかりでした。
「サイドウェイ」「Uボート最後の決断」「エターナル・サンシャイン」「コントロール」「アビエイター」「クライシス・オブ・アメリカ」です。
「サイドウェイ」
中年男・親友2人のワイナリーを巡る小旅行の話。一人は離婚の傷を引きずる独身教師。もう一人はテレビ俳優で、一週間後に若い花嫁をもらう予定になっている遊び人。小旅行で独身最後の女遊びをもくろむ男と奥手の教師。落ち着いたリアルな描写がコメディー部分を盛り立てて、中途半端に馬鹿騒ぎする近頃のアメリカ映画とは一線を画して味わい深さまで出すことに成功している。なかなか面白い映画。
「エターナル・サンシャイン」
チャーリー・カウフマン監督(マルコビッチの穴)お得意の不条理な画面が交錯する恋愛コメディー。恋人との破局の思い出を忘れたい主人公(ジム・キャリー)は記憶を消去してくれる病院の門を叩く。と言う話で、消されてしまいそうな記憶が脳の中を逃げ回るのがなかなか面白かった。ただカウフマン監督の映画未経験の人にはしんどいかもしれないトリッキーな映画。
「コントロール」
主演レイ・リオッタ、ウィリアム・デフォーという超強面2人がガップリ四つに組む心理サスペンス。ある殺人犯(レイ・リオッタ)が死刑か新薬の実験材料になるか選択を迫られる。それは薬によって攻撃性を奪うという実験だった。と言う内容で、子供を強盗に殺された過去を持つ新薬を発明した博士(ウィリアム・デフォー)と義父に虐待された過去を持つ殺人犯との徐々に湧き上がっていく友情をえがいている佳作。心に残ります。
「Uボート最後の決断」
潜水艦映画の傑作です。今回の心ぴく映画にしようと思ったほど心を動かされました。
アメリカ兵を助けてしまったUボートのドイツ人艦長の苦悩をはじめ、すべての登場人物の個性が短い会話や行動の中で浮き彫りになりサスペンスを盛り上げていくストーリーは見事。少しの中だるみも無くリアルな人間同士が、生き残るために戦いそして生き残るために協力してゆく。ラストは男の友情に目頭が熱くなりました。超お薦めのかっこいい男の映画です。
「クライシス・オブ・アメリカ」
ジョナサン・デミ監督(傑作「羊たちの沈黙」3回映画館に行きました。)いったいどうしてしまったんだ?アカデミー賞受賞俳優、メリル・ストリ―プ、デンゼル・ワシントン、ジョン・ボイトこれだけの面々をそろえてこれはないだろう。すべてにちぐはぐな印象を受けたのは私だけでしょうか?製作の舞台裏で何があったか知りませんが、次に期待していますよ。デミ監督。
というわけで好きな監督の肩透かし映画もあれば、コンスタントにレベルを落とさずに撮り続けている監督もいます。
第28回の心ぴく映画は「アビエイター」です。
大好きなマーティン・スコセッシ監督作です。大金持ちハワード・ヒューズの半生を描いているので(?)お金のかけ方も半端じゃありません。ほとんどを飛行機と女性と潔癖症の描写についやし、ヒューズ役のデカプリオファンが期待していた華麗なる恋愛ドラマはほとんど見られません。そしていわゆる泣ける映画になっているはずもなく、ただ天の眼差しで大金持ちの生態を観察しているという映画です。
今、日本でヒットする映画の要素はどこにも無い映画だと断言していいでしょう。
しかし私は面白く見ることが出来ました。もっと説明を省いても良かったくらいです。(ハワード・ヒューズが潔癖症になった件など)
近頃、複葉機があれだけ多く空を飛び回る爽快なシーンがある映画は久しぶりです。まるで登場するさまざまな飛行機に人格があるように描いています。
これからも分るとおり、スコセッシ監督の天の眼差しからすれば飛行機も人間もただの物質でしかなくそれが動き出すことによってドラマが始まる、こういう突き放した描き方に、今、日本の親切なくらい台詞でストーリーを説明するテレビドラマのような映画に慣れた人達はついて行けないかもしれません。
そんなスコセッシ流の描き方は初期からぜんぜん変わっていなくて、不器用なほど作家性がある監督だと嬉しくなってしまいました。
とくに飛行機事故のシーンの凄まじいこと。まるで傑作「タクシードライバー」の銃撃戦で弾丸が人体にどんな破壊をもたらすか丹念なカット割で見せてくれたように、細かいカットでハワード・ヒューズの体に受けた衝撃を描いていきます。それはまた過去にアカデミー作品賞を受賞した「レイジング・ブル」のボクシングシーンを彷彿とさせました。スローモーションで汗と血潮が飛び散るシーンです。
そしてハワード・ヒューズの病が悪化してゆく描写はまるで「タクシードライバー」の主人公トラビスのそれと同じです。
そしてラストはやはり「レイジング・ブル」と同じような終わり方をします。
デートには不向きな映画です。前記したテレビドラマ映画好き観客には、けっして面白いといえる映画ではありませんから。
ただ、なにかモヤモヤとするものは残ると思います。焦燥感みたいなものです。それがスコセッシ映画特有のもので、それが気に入る人は私と同じように楽しめると思います。
これを読んで面白そうだと思った人は是非見てください。そうでない人には勧めません。
そんな映画です。
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