心ぴくコーナー

このコーナーは、私(巻来功士)が、今月見た映画の中で、心臓がピクピクするほど感動及び興奮、または憤慨?した作品を紹介するコーナーです。

第30回 <「今回は大漁の3作品」> 2005.06.15

第29回 <ドッジボール> 2005.05.20

第28回 <アビエイター> 2005.04.16

第27回 <アレキサンダー> 2005.03.09

第26回 2004年度・巻来功士的映画ベスト10 2005.02.06

第41回〜第45回 第36回〜第40回 第31回〜第35回

第21回〜第25回 第17回〜第20回 第13回〜第16回

第9回〜第12回 第5回〜第8回 第1回〜第4回

前に戻る


<「今回は大漁の3作品」>

今回は大漁の3作品

※画像をクリックするとイラスト表示

記念すべき第30回目の「心ぴく」です。
今回見た映画は「ワンダーランド」「キングダム・オブ・ヘブン」「ブレイド3」「ワイルドタウン/英雄伝説」「ミリオンダラー・ベイビー」「おわらない物語・アビバの場合」「バタフライ・エフェクト」の6本です。

「ワンダーランド」
80年代ハリウッド・ワンダーランド通り沿いの家で実際のあった殺人事件を元にして作られた映画。70年代にスターだったポルノ男優がかかわったとしてアメリカでは話題になった事件のようだが、この人をモデルにした傑作人間ドラマ「ブギーナイツ」があるだけに色あせて見えた。見せ場は5人が撲殺される様で、リアルなのはいいがそれだけの印象で、人間ドラマが弱く誰にも感情移入できないからグロな感じが残ったまま映画館を出た。
近頃には無いリアルなパワーだけは感じられた作品。
「ブレイド3」
前作・前々作の1・2と比べてかなり見劣りする駄作。監督にホラーアクションに対する愛がまったく感じられない。話がきたから撮った、そうゆう感じ。
「ワイルドタウン/英雄伝説」
70年代の地味だが心に残る映画「ウォーキングトール」のリメイクだと聞き劇場に走った。前作に似たリアリズムは前半の少しだけで後はランボー映画に早代わり。なんだかなあ。
「バタフライ・エフェクト」
恋人を救う為に何度も過去に精神だけタイムスリップする映画。アイデアが凄く面白く、先が全く読めなかった。ほろ苦いラストがもっと強調されていれば「心ピク」映画だったのに。全く惜しい作品。
「おわらない物語−アビバの場合−」
<ハピネス><ストーリーテリング>の天才監督トッド・ソロンズの最新作。アメリカの堕胎問題に真正面から取り組んだ(?)重い人間喜劇。主人公の12歳の少女アビバを、年齢が全く違う8人の女優が演じていて
最初は戸惑うが、そのうち慣れてへんな可笑しさをかもし出してくる。
ソロンズの分身のようなオバQの小池さん似の男が、理屈っぽく笑わせる所が特に気に入った。やっぱ面白いよトッド・ソロンズ。今回の「心ぴく」決定
「ミリオンダラー・ベイビー」
アカデミー賞主要4部門獲得のクリント・イーストウッド監督作。日本の評論家そろって絶賛。まるで批判しちゃ駄目みたいな作品。
確かに前半は近年まれにみる面白さ。面白すぎてまるでイーストウッド映画ではないみたいだった。(イーストウッド映画は、主に全体に沈んでいる感じが一定していて、観客の好き嫌いが出だしからハッキリする世界を描いているものが多い。雰囲気全体がセピア色ならば、他の色は塗らない画家みたいな作家性に溢れた作り方をしていると思う。)
さて後半だが、物語としてああいう展開になるのは全く自然だし私もグッと来どうしだった。確かに人間個人の尊厳を切々と描いていたしラストも良かった。あの終わり方しかないように思う。
しかし素直じゃない私は前作「ミスティック・リバー」や「許されざる者」ほどには見終わってすぐに傑作だとは正直思えなかったのだ。
それはなぜかと考えてみると前半後半の色があまりに違いすぎることに気づかされた。
面白すぎる前半がいつものイーストウッドのセピア色ではない、まるで明るいオレンジや闘志溢れる赤なのだ。だからいつものセピア色の後半が必要以上に悲劇の押し売りに見えてしまうのだろうと思う。
イーストウッドは、これはボクシング映画ではないといっているという。しかしあの前半の面白さを見れば、イーストウッドがかなりのボクシングファンなのは歴然だろう。
その監督の計算外の面白がり方をしてしまった前半と従来の落ち着いた作家性溢れる職人監督が撮った後半の落差が見終わったあと素直に傑作といえなかった理由かもしれないと思う。原作は元ボクシングトレーナーが書いた短編2編を組み合わせたものだという。
名監督でもその溝を埋められなかったのか。惜しい本当に惜しい作品だ。
大傑作になる所が傑作になってしまったのだから・・・。ただし私の貧相な心をぴくぴくさせて余りある傑作にはなっていた。「心ぴく映画」決定
「キングダム・オブ・ヘブン」
待ちかねたリドリー・スコット監督の最新作。
十字軍とサラセン軍の戦いの話だと聞いてアメリカ=十字軍が主人公の駄目映画「ブラックホーク・ダウン」の悪夢がチラッと頭をかすめたが、まったくの杞憂に終わり大変面白い映画を見せてもらった。まさにこれがスコット節。(それにしても「ブラックホーク・ダウン」だけが駄目なのはどうしてだろう?あっそうか。あれだけプロデューサーがあのジェリー・ブラッカイマー<「アルマゲドン」「ザ・ロック」などの駄目駄目映画プロデューサー>なんだ。リドリー・スコットほどの監督の創作力を狂わせるとは、ブラッカイマーの駄目駄目光線恐るべし。)
少し主人公のオーランド・ブルームにも不安を覚えたが、他の映画のへなへな演技から見事に脱皮していて安心して見ていられた。
やはり共演者の熱演も励みになったのだろう。父親役のリーアム・ニーソンをはじめ脇役に、いぶし銀の俳優が溢れている豪華版で、特に最後まで仮面で素顔を隠したままのエルサレム王を演じたエドワード・ノートンの存在感が圧倒的で驚嘆させられた。
主人公の十字軍に入る理由からすぐに感情移入でき、エルサレム王の気高さに感動し、最後の戦い、そして生き残ることが勝利であるというスコット節の炸裂。
非常にさわやかに映画館を後にできた傑作。これも今回の「心ぴく」に決定

というわけで第30回「心ぴく」映画コーナーは3本の大漁になりました。
次回も期待でいっぱいです。どうか、より多くの心ピク映画と出会えますように。

TOPへ


<ドッジボール>

ドッジボール

※画像をクリックするとイラスト表示

第29回目の心ぴくです。
今回見た映画は「コンスタンティン」「インファナル・アフェア3」「ナショナル・トレジャー」「ドッジボール」「シャル・ウイ・ダンス」「キャビン・フィーバー」「マスク2」の7本です。
「コンスタンティン」
期待が大きかったせいか、アメリカ映画の限界を見たような映画になっていました。やはり一神教の国なので神や悪魔の描き方が自由ではなくどこかで見たような感じで、ただ過去の映画をくっつけた印象でした。仕方ないですね。アメリカだもの。
「インファナル・アフェア3」
1・2を見ていないと絶対に分からない作品。でもそれを堂々と作ることが凄い。全編、過去と現実が交錯する場面の連続に正直眠くなるが、さすがにラストのどんでん返しは見せる。1・2ほどではないがなかなか面白い。
「ナショナル・トレジャー」
宝探し映画。それ以上でもそれ以下でもない映画。
「シャル・ウイ・ダンス」
これもアメリカ映画の限界を見たような映画。元祖にある恥じらいや秘めた思い、中年男の虚しさなど消えうせアメリカンセレブの自分探しが明確に語られていく。「不幸になるのか幸福になるのかドッチにするか決めてよ」と始終決断を迫られているような感じ。だから最後ははっきりとしたハッピーエンド。これじゃあ既婚者の半分以上離婚するのは当然に思えてくる。
「キャビン・フィーバー」
ホラーファンが作ったパロデイ精神に満ち溢れた映画。どこかで見たような話だが憎めない。南部のコンビニの親父が最高。70年代〜80年代ホラーファン必見の映画かも。
「マスク2」
絶対に期待して行ってはいけない映画。一作目はジムキャリーの映画であり、彼が出ていないこの映画は全く別物の、CGにおつまみ程度に人間が動き回る映画だと思ってみれば腹も立たない。トムとジェリーなどのカートゥーンが好きな人は楽しめるかも。
というわけで29回目に心ぴくった映画はオオバカコメディー映画「ドッジボール」です。

アメリカで大うけのコメディー俳優ベン・スティラー主演の下品で悪趣味な馬鹿映画です。だからこそ(?)徹底的に面白く、とてもハッピーな気分になれます。
本当にあるかどうか分からないアメリカンドッジボール大会の賞金をめぐって様々な大馬鹿チームが戦いを繰り広げます。その描写が<少林サッカー>をほうふつとさせて痛快です。
ただし少林サッカーにマジメなヒロイズムを感じてしまう人にはお薦めできないかもしれません。
あくまでも大馬鹿映画として楽しめる人の作品だと思います。
今回のスティラーは珍しく悪役でそれを楽しんでいる気持ちが画面から溢れています。
エンドロールが始まっても席を立たないで下さい。日本では放送コードぎりぎりのスティラーの怪演がたっぷり楽しめますから。
こんな映画を見ていると近頃のアメリカ映画で面白いのはコメディーとインデペンデント系映画だけではないかと思えてきます。
真面目に作った大作映画はあらゆる圧力団体の顔色を伺った限界映画ばかりで面白くありません。
そんな現状の中で、アメリカの伝統なのか、笑えれば全て許すという精神が、逆に近頃のコメディーに力を与えているとすら思えてきます。
だからこそ笑いの中に社会批判がにじみ出るファレリー兄弟のような天才肌の監督まで出現しているのでしょう。
そんな小難しい話は置いといても近頃のアメリカンコメディーは面白いですよ。
好き嫌いはあるとおもいますがフラッと立ち寄って見る感じがとてもいいと思います。
<日本の笑じゃない。こんなギャグすでに  さんがやっている。日本のギャグがすすんでいる>などと片意地張る文化人(?)は置いといて広い心で見ましょうよ。
普段見慣れていない寄席で落語を聞くように。笑えると思いますよ。

TOPへ


<アビエイター>

アビエイター

※画像をクリックするとイラスト表示

第28回目の「心ぴく」です。
今回は6本しか劇場で映画を見ることができませんでした。
しかし、1本を除きどれもなかなかに面白く、作家性が強く出た個性的な私好みの作品ばかりでした。
「サイドウェイ」「Uボート最後の決断」「エターナル・サンシャイン」「コントロール」「アビエイター」「クライシス・オブ・アメリカ」です。

「サイドウェイ」
中年男・親友2人のワイナリーを巡る小旅行の話。一人は離婚の傷を引きずる独身教師。もう一人はテレビ俳優で、一週間後に若い花嫁をもらう予定になっている遊び人。小旅行で独身最後の女遊びをもくろむ男と奥手の教師。落ち着いたリアルな描写がコメディー部分を盛り立てて、中途半端に馬鹿騒ぎする近頃のアメリカ映画とは一線を画して味わい深さまで出すことに成功している。なかなか面白い映画。
「エターナル・サンシャイン」
チャーリー・カウフマン監督(マルコビッチの穴)お得意の不条理な画面が交錯する恋愛コメディー。恋人との破局の思い出を忘れたい主人公(ジム・キャリー)は記憶を消去してくれる病院の門を叩く。と言う話で、消されてしまいそうな記憶が脳の中を逃げ回るのがなかなか面白かった。ただカウフマン監督の映画未経験の人にはしんどいかもしれないトリッキーな映画。
「コントロール」
主演レイ・リオッタ、ウィリアム・デフォーという超強面2人がガップリ四つに組む心理サスペンス。ある殺人犯(レイ・リオッタ)が死刑か新薬の実験材料になるか選択を迫られる。それは薬によって攻撃性を奪うという実験だった。と言う内容で、子供を強盗に殺された過去を持つ新薬を発明した博士(ウィリアム・デフォー)と義父に虐待された過去を持つ殺人犯との徐々に湧き上がっていく友情をえがいている佳作。心に残ります。
「Uボート最後の決断」
潜水艦映画の傑作です。今回の心ぴく映画にしようと思ったほど心を動かされました。
アメリカ兵を助けてしまったUボートのドイツ人艦長の苦悩をはじめ、すべての登場人物の個性が短い会話や行動の中で浮き彫りになりサスペンスを盛り上げていくストーリーは見事。少しの中だるみも無くリアルな人間同士が、生き残るために戦いそして生き残るために協力してゆく。ラストは男の友情に目頭が熱くなりました。超お薦めのかっこいい男の映画です。
「クライシス・オブ・アメリカ」
ジョナサン・デミ監督(傑作「羊たちの沈黙」3回映画館に行きました。)いったいどうしてしまったんだ?アカデミー賞受賞俳優、メリル・ストリ―プ、デンゼル・ワシントン、ジョン・ボイトこれだけの面々をそろえてこれはないだろう。すべてにちぐはぐな印象を受けたのは私だけでしょうか?製作の舞台裏で何があったか知りませんが、次に期待していますよ。デミ監督。
というわけで好きな監督の肩透かし映画もあれば、コンスタントにレベルを落とさずに撮り続けている監督もいます。

第28回の心ぴく映画は「アビエイター」です。
大好きなマーティン・スコセッシ監督作です。大金持ちハワード・ヒューズの半生を描いているので(?)お金のかけ方も半端じゃありません。ほとんどを飛行機と女性と潔癖症の描写についやし、ヒューズ役のデカプリオファンが期待していた華麗なる恋愛ドラマはほとんど見られません。そしていわゆる泣ける映画になっているはずもなく、ただ天の眼差しで大金持ちの生態を観察しているという映画です。
今、日本でヒットする映画の要素はどこにも無い映画だと断言していいでしょう。
しかし私は面白く見ることが出来ました。もっと説明を省いても良かったくらいです。(ハワード・ヒューズが潔癖症になった件など)
近頃、複葉機があれだけ多く空を飛び回る爽快なシーンがある映画は久しぶりです。まるで登場するさまざまな飛行機に人格があるように描いています。
これからも分るとおり、スコセッシ監督の天の眼差しからすれば飛行機も人間もただの物質でしかなくそれが動き出すことによってドラマが始まる、こういう突き放した描き方に、今、日本の親切なくらい台詞でストーリーを説明するテレビドラマのような映画に慣れた人達はついて行けないかもしれません。
そんなスコセッシ流の描き方は初期からぜんぜん変わっていなくて、不器用なほど作家性がある監督だと嬉しくなってしまいました。
とくに飛行機事故のシーンの凄まじいこと。まるで傑作「タクシードライバー」の銃撃戦で弾丸が人体にどんな破壊をもたらすか丹念なカット割で見せてくれたように、細かいカットでハワード・ヒューズの体に受けた衝撃を描いていきます。それはまた過去にアカデミー作品賞を受賞した「レイジング・ブル」のボクシングシーンを彷彿とさせました。スローモーションで汗と血潮が飛び散るシーンです。
そしてハワード・ヒューズの病が悪化してゆく描写はまるで「タクシードライバー」の主人公トラビスのそれと同じです。
そしてラストはやはり「レイジング・ブル」と同じような終わり方をします。
デートには不向きな映画です。前記したテレビドラマ映画好き観客には、けっして面白いといえる映画ではありませんから。
ただ、なにかモヤモヤとするものは残ると思います。焦燥感みたいなものです。それがスコセッシ映画特有のもので、それが気に入る人は私と同じように楽しめると思います。
これを読んで面白そうだと思った人は是非見てください。そうでない人には勧めません。
そんな映画です。

TOPへ


<アレキサンダー>

アレキサンダー

※画像をクリックするとイラスト表示

第27回の「心ぴく」です。
今回見た映画は「セルラー」「アレキサンダー」「マシニスト」「THE JUON 呪怨」「ボーン・スプレマシー」「エメラルド・カウボーイ」の6本です。
「THE JUON 呪怨」は日本版「呪怨」とほとんど同じ。登場人物をアメリカ人にかえたことが違うくらい。日本版を見ていない人には楽しめそうな?作品。
「ボーン・スプレマシー」
最後にうるっと感動したい人向の本格?スパイ映画。私にはなんだか言い訳ばかりの今のハリウッド映画の一連の作品となんら変わりはないように思えた。殺人マシーンならもっとそれらしく描いてほしかった。でもそれじゃあ女性客が引くか・・・。ああ、昔の「ジャッカルの日」「コンドル」などの乾いたポリティカルサスペンスの傑作を今のアメリカ映画に求めるのは無理なのか。
「エメラルド・カウボーイ」
変な作品。エメラルド王と称される実在の日系人の半ドキュメント?。自分の半生を役者を使わず自分で演じているのだから、なんだかすごい(ただし若い時を演じていたのはコロンビア人の役者)。ただ南米コロンビアのとんでもなさはビンビン伝わる映画。
「マシニスト」
惜しい、ほんとの惜しい映画。もう少しで「メメント」並みの傑作になった可能性あり。オチの先にもう1つ何かほしかった。30キロ減量して文字どおりガリガリになったクリスチャン・ベールの鬼気迫る身体は一見の価値あり。
「セルラー」
これぞエンターテイメントの手本といえるような傑作。
昔の2本立て映画の何も期待してなかったほうに傑作を見つけたような
喜びを思い出させる映画。伏線の張り方、軽いギャグの飛ばし方、まさに万人に受ける面白さ。人間ドラマ、アクション、サスペンス、伝記ものと大作映画が全て腑抜けになったハリウッド映画の唯一生き残る道がこれだと思える。

と、いうわけで今回の「心ぴく」映画は「アレキサンダー」です。
オリバー・ストーン監督の俺様映画です。お涙頂戴の感動やスカッとするヒーローとは無縁の映画です。それが3時間続きます。分かりやすいテレビ的な映画を好む人が圧倒的に多い今の時代に珍しい映画です。
その感覚で見れば本当につまらない映画でしょう。
主人公のアレキサンダー大王を演じるのはいつも困ったような顔をしているコリン・ファレル。そしてココに描かれるのはマザコンの若い王のトラウマとの戦い。友達とのホモセクシャルを思い起こさせる厚い友情。そのものの性癖。
絶対にテレビドラマでは取り上げない目線です。これが嫌いな人は見る必要はありません。しかしだからこそ、これが映画なのです。
リモコンで一時停止も出来ないし、途中で席を立ち、また後で残り半分を見ることも出来ないのです。千数百円払ったら最後、終わるまで画面しか見えない暗闇に居続けなくてはなりません。だからある意味我慢が必要なのです。
我慢して見続けるとテレビのようなお手軽な感動ではなく、なにか分からないが胸に迫るものが湧き出てくる。それが映画だと思うのです。
そうでなければ、デビッド・リーンや黒澤明、ルキノ・ビスコンティー、スタンリー・キューブリックの一連の傑作が生まれるわけはないのです。
つまりそれが観客に媚びず自分のスタイルを守る作家性がある映画なのです。
いまそんな映画作家はハリウッドでは使ってもらえないのか、ほとんどいなくなりました。今いるのはプロデューサーの意見通りにカメレオンみたいに自在に手法をかえて作る名無しの監督ばかりです。
こんな監督に心の底に迫る作品が作れるわけがありません。
オリバー・ストーンは今も奇跡的に生き残っている大作を撮ることが出来る作家性がある監督です。
他に何とか頑張っているのがマーティン・スコセッシ。ミロシュ、ホワマン(そういえば近頃見ないなあ)ぐらいでしょうか。
彼らは不器用なほどに自分の核にあるテーマに沿って話を作っていきます。
だから、製作・脚本・監督を全て自分でこなしている場合には破綻は少ないのですが、プロデューサーが持ってきたホンとテーマが合わない場合悲惨な映画になる場合もあります。
「アレキサンダー」はギリギリの所でそれを回避できた作品だと思います。
ダイナミックな戦闘シーン、それと裏腹に消耗していく人間達。欲望が募れば募るほど不幸になっていく人間の業を見事に映し出していると思いました。
それが、最も私が好きなシーンであるアレキサンダーが馬に乗り、像に突進していくシーンに結実していると思いました。
まさにオリバー・ストーン節が炸裂した瞬間です。
前半少しだれますが、それが大作映画というもの。これを読んで興味が沸いた人は是非見てください。最後まで見ればなにかが心に残ります。
それが人によっては嫌悪感かもしれませんが・・。
しかしオリバー・ストーンが一貫して映画で伝えたいことがこれなのです。
何も外れていないオリバー・ストーン的傑作です。

TOPへ


<2004年度・巻来功士的映画ベスト10>

巻来功士的映画ベスト10

※画像をクリックするとイラスト表示

今年になって初めての「心ぴく」です。
1月に1週間も寝込む悪性の風邪をひいてしまい、2月にずれ込んでしまいました。
でもなんとか7本は映画を見ることができ、この文章が書けるぐらいには体力は回復した次第です。
やはり久々の週間連載の肉体的・精神的ストレスは半端な物ではなかったらしく、日頃からの健康対策の重要性を認識させられました。
今年になってみたのは「Mr.インクレディブル」「カンフーハッスル」「ゴジラ・ファイナルウォーズ」「スーパーサイズ・ミー」「ネバーランド」「パッチギ」「レイ」ですが、溜まった疲れでこちらの感受性が鈍っていたのか心に刺さる傑作と感じるものはありませんでした。でも、それなりには面白かったです。
「Mr.インクレディブル」はスーパーヒーロー一家の冒険談。ピクサーものとしては大人が主人公の珍しい作りになっている。ただ傑作<トイ・ストーリー>のキレには及ばない。
「カンフーハッスル」
面白いが、主人公が目覚める所の演出が以外に燃えない。やっぱ<少林サッカー>は傑作でした。
「ゴジラ・ファイナルウォーズ」
ウム、ゴジラだ。海底軍艦・轟天号のCGシーンは結構頑張っていたと思う。でも未だもって着ぐるみとは・・・。
「スーパーサイズ・ミー」
Mのバーガーを食べまくると病気になるというドキュメンタリー。ただそれだけの映画。
「ネバーランド」
曲者役者、ジョニー・デップがひたすら良い人を演じている印象の映画。もっと期待したんだけれど。
「パッチギ」
なんだか、まとめちゃった感じがする。フォーク・クルセダースの音楽とヒロインの女の子は大成功の映画。でも笑いも感動も思ったほど突き抜けない感じがするのは感性が鈍っている私だけでしょうか。
「レイ」
レイ・チャールズの音楽が素晴らしい。レイに成りきった、ジェイミー・フォックスが素晴らしい。しかし監督の演出が平板な感じで人間ドラマとしての深さを感じなかった。全く惜しい作品。

というわけで今回、第26回「心ぴく」はなしです。
代わりと言ってはなんですが、2004年度・巻来功士的映画ベスト10を発表してみたいと思います。

1位
「ドッグヴィル」(心ぴく第17回掲載)
2位
「ミスティック・リバー」(心ぴく第15回掲載)
3位
「エイプリルの七面鳥」(心ぴく第24回掲載)
4位
5位
6位
「息子のまなざし」(心ぴく第16回掲載)
7位
「砂と霧の家」(心ぴく第24回掲載)
8位
「オールドボーイ」(心ぴく第24回掲載)
9位
「華氏911」(心ぴく第22回掲載)
10位
「コラテラル」(心ぴく第24回掲載)

という結果になりました。
2005年度もベストテンを選ぶのに苦労する年になりますように。

ギャラリーフィギアアンケート作品・書籍作者紹介新作・新刊トップページへ