今月は、前回に引き続きお正月映画全盛と言うこともあり、なかなか心に響きそうな作品が見出せず見た本数は少なかったのですが、今月の後半に見た映画の中にかなりの傑作があり、お正月映画のフラストレーションを一気に払拭してくれました。
今月観た映画は「ファインディング・ニモ」「女はみんな生きている」「ドラキュリア2」「タイムライン」「ミスティック・リバー」「25時」の6本です。
では第15回の「心ぴく」コーナーは、まぎれもない傑作「ミスティック・リバー」「25時」の2本を紹介します。(はっきりしたオチは書いていませんが映画を見慣れた人は、見終わってから読んだ方が良いかもしれません。)
「ミスティック・リバー」はおそらくこの2・3年に1本の傑作だろうと私は思います。
ミステリーの形を借りて男たちの友情と悲劇を描いた感動作。宣伝のキャッチコピーにはおそらくこれと似たような文句が踊っていると思いますが、感動=泣けると思って観たら大間違いです。
監督はあのクリント・イーストウッドです。彼が今まで作ってきた映画にそんな単純な映画があったでしょうか。初監督の「恐怖のメロディー」から私の大好きな「アウトロー」そして「許されざる者」まで、スカッとするアクションモノも感涙に咽ぶ作品もありません。あの「ダーティーハリー」シリーズも同様で、どちらかといえばドヨンと空気が澱んだようなラストを迎えるものがほとんどです。
あまりイーストウッド作品を見たことがない人は、ただのアクション作を作り、出演していた俳優が突然、こんなに救いがなく真っ暗な、しかしものすごい人間ドラマをつくってしまったことに困惑するかもしれません。まさにこの映画は〜系の映画だとあらかじめ思って見に来た観客を思い切り戸惑わせるものになっています。
最初は主人公3人の子供時代の不幸なエピソードから始まります。
そして30代半ばになった3人のうちのひとり、ジミー(ショーン・ペン)の愛する娘が殺害されたことで、3人は再会します。
娘を溺愛していた故、激しく嘆き悲しむジミー。
それをなぐさめる、心に傷を負った幼友達デイブ(ティム・ロビンス)、
その事件を捜査する為に故郷の街に帰ってきた幼友達の刑事ショーン(ケビン・ベーコン)。
不幸なジミー、精神を病んでいる為に、観客にとっては少し怪しいデイブ、そしてこの難事件を解決する敏腕刑事ショーン、さあ後は犯人探しをじっくり楽しめばいい。そう思って見ているとアレアレと首を傾げる展開になって行きます。
とくに不幸なジミーの印象が変わってきます。娘を殺された事にはまちがいないのですが、不幸=可哀想ではなくなってくるのです。ここからの展開が唸らされます。犯人探しはさして重要ではなくなり、3人の個人的な謎に焦点が当てられてくるのです。謎=少年時代に受けた傷を背負い今まで生きてきた人生に。
そして後半、その不幸な人生と殺人事件という悲劇が結びつき胸震えるラストへとなだれ込みます。
まったく、素晴らしい、の一言に尽きる演出です。
そしてその上素晴らしいのは、これまでのイーストウッド映画のラストを突き抜けてしっかりと答えを出している所です。これまでならば、おそらくラストは、主人公たちが幼き日のデイブが連れ去られてゆく幻を見るシーンで終わると思うのですが・・。しかし今度のイーストウッドは空気が淀んだような終わり方をせず、真正面からこれからの主人公たちの生き様を映し出して終わるのです。決然とした意志をも映し出して。
私が大傑作と思う理由はそこにあります。ただのトラウマミステリーがラスト、あの名作「ゴッドファーザー」の輝きを発するのです。
ジミー(ショーン・ペン)のサングラスをかけるシーンには心底震えました。まるで「ゴッドファーザー」のラストのマイケル(アル・パチーノ)の表情を見たときと同じような感動を覚えたのです。
とにかく、これぞ本物の「心ぴく」映画といっても過言ではない超お薦めの一本です。
「25時」は黒人監督スパイク・リーの作品です。
そしておそらく初めての白人が主人公の映画だと思います。
この作品も友情を描いていますが、「ミスティック・リバー」とはちがい、今を生きる青春時代の友情の物語です。青春とは後悔の連続、そんな映画です。これにはまだ若い国アメリカの後悔も描き出されます。
9・11グランド・ゼロを見下ろしながらの場面、ビンラディンの映像、そして、麻薬売買の罪で数時間後に収監される主人公モンティー(エドワード・ノートン)が鏡に向かって毒ずくシーン。アメリカで生活するあらゆる人種の映像が流れ、それを罵り、しかし自分が最もバカだと最後に呟くモンティー、このシーンには泣かされました。
7年間もお釜を掘られるかもしれない監獄にいなければならないのです。その恐怖と後悔の感情が見ているこちらにもズンズン迫ってきます。
友達も後悔しています。なぜ麻薬の売買をやめさせられなかったのかと。
後半のその友達とのエピソードがまるでベタな青春映画のように展開されます。
しかしそのベタな演出が後悔の感情とマッチして意外なほどの感動を呼び起こします。これは私にとっても新鮮な感動でした。そして父の車の中から眺めるニューヨークの街並みと街行く色々な人種の人々、黒人の少年、見ていて目頭が熱くなるシーンです。そして父の言葉、幸福な幻想。この詩的映像がいつまでも心に染み付いてはなれない。そんな映画です。
誰もが必ず持っている後悔の感情それを刺激する傑作です。
とくに後悔することばかりの私には心がぴくぴくした映画でした。
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