今月は、結構面白い映画が多く、実りが多い月になりました。見たのは8本。
「閉ざされた森」ひさびさのジョン・マクティアナン監督作、どんでん返しが多すぎてラストの意味が分からなくなりそうな怪作。
「シモーヌ」結局ハリウッド的落ちだが、アル・パチーノの演技が光る娯楽作。
「デス・フロント」落ちないラストだが雰囲気がなかなかいいイギリス映画。
西部戦線の怪奇譚「ドッグ・ソルジャー」やはりイギリス映画、狼男軍団対イギリス陸軍小隊、森林での血みどろバトル。金は掛かってないがサバイバルのアイデアが光る作品。
「HERO〜英雄〜」日本の戦国物に通じる情緒が泣かせる大ヒット中国映画。
「名もなきアフリカの地で」実話らしいが、第二次大戦を舞台に見せる古典的な家族再生のドラマ。意外と凡庸だが、アフリカの大地が見せる作品。
「戦場のフォトグラファー」ロバート・キャパ金賞5回、以下数々の賞に輝くアメリカ人戦争写真家、ジェームズ・ナクトウェイのドキュメント映画。まるで写真に全てを捧げる修行僧のような氏の生き方に圧倒され、戦争の現実が胸に迫る傑作。日ごとにきな臭くなるこんな時代にこそ、もっと広く見てほしい映画。
「座頭市」ご存知大ヒットたけし映画。
というわけで第11回心ぴくコーナーは「座頭市」です。
近頃の日本娯楽アクション映画の中では図抜けた傑作だと思います。
痛快で迫力があり、残虐な描写を笑いが中和し、ラストの生き生きとした祭りの描写が大団円を盛り上げる。多少敵の黒幕の描写がダソク的なところはご愛嬌で、非常に楽しめました。第二弾が待ち遠しい日本映画はひさしぶりです。
ただ一抹の不安もよぎるのです。この映画が氏の、客を意識した計算によって作られていれば良いのですが・・・。次回作もこれまでの氏の映画のように、感性だけを売り物にした業界人が持ち上げる(なんだかなあ〜)みたいな映画にはしてほしくないのです。信じていいですよね。
思えば氏はこの映画を撮る為に、これまでもがいて来たように思えるのですがどうでしょうか?
「その男凶暴につき」の刑事、「ソナチネ」のやくざ、「キッズリターン」の高校生、「HANABI」の刑事、他の作品もそうなのですが、もやのやした物を吐き出すときに主人公達がみせるパワーのようなものを唐突に表現する描写の連続で映画が構築されていたように思います。というわけでこれまでの氏の映画は現代という舞台の上でそれをやっているので、暴力的な男がみせる暴力ファンタジー世界を受け入れられるコアなファンしか楽しめない作品になっていたのではないかと思うのです。そしてその映画達の中心に、監督として、主人公として、絶えずドッカと腰を下ろしていたのが、暴力ヒーローたけし自身だったのです。どの作品もたけしというヒーローを描いた物だと言ったら言い過ぎでしょうか?そんなリアリティーのない、そしてカタルシスもないヒーロー映画をなぜヨーロッパの人々が支持するのかと私なりに考えてみた結果、住んだこともない他国の人が日本の空気を肌で理解することなどできるはずもないので、彼らは、まず映画の舞台や設定を現実と捕らえて見始めるしかないのです。けっしてこんな物うそ臭いなどと思うはずもなく現実にあるものだと思えば、あんないきなり銃を撃つ日本ヤクザの描写など怖くて面白いに決まっています。あくまでうそ臭いと思わない他国の人の話ですが・・・。
というわけで、それまでの氏の映画をうそ臭いファンタジーと感じていた私がなぜ「座頭市」が面白かったかというと、まさに完全に腹の座ったファンタジー映画になっていたからなのです。
たけしのそれまでの映画で聞こえていた「なんで憎たらしいヤツをぶっ殺してもスカッとしないんだ?馬鹿やろー」と言う声が「座頭市」では「あっ、ぶっ殺してスカッとする世界がここにあったんだ」という喜びの声に変わっていたのです。そのくらいに乗って作っていると思えたのです。だからこそ、これまでの映画のように、展開に迷ったから話と関係ないギャグやエピソードを入れるという描写はほとんど無く、シンプルで客が乗れる映画になっていたのだと思いました。
願わくば次回作は観客のことを考えた大娯楽大作「座頭市2」を期待しているのですが、天才と業界人からモテハヤサレテいる人だけにやはり多少の不安があるのは事実です。取り越し苦労ですよね。期待していますよ、北野武監督。
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