心ぴくコーナー

このコーナーは、私(巻来功士)が、今月見た映画の中で、心臓がピクピクするほど感動及び興奮、または憤慨?した作品を紹介するコーナーです。

第8回 <ハンテッド> 2003.06.24

第7回 <NARC ナーク> 2003.05.28

第6回 <リベリオン><スパイダー 少年は蜘蛛にキスをする> 2003.04.25

第5回 「心ぴく」特別編<今だからお薦めの戦争映画10本> 2003.03.24

第41回〜第45回 第36回〜第40回 第31回〜第35回

第26回〜第30回 第21回〜第25回 第17回〜第20回

第13回〜第16回 第9回〜第12回 第1回〜第4回

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第8回 <ハンテッド>

ハンテッド 6月映画いろいろ
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今月は、「8Mile」「アバウト・シュミット」「サラマンダー」「六月の蛇」「マトリックス・リローデッド」「ロスト・イン・ラ・マンチャ」「ギャングスター・ナンバー1」「めぐりあう時間たち」「ハンテッド」「ホテル・ハイビスカス」と見まくり、「サラマンダー」(眠くなりました)を除いて、けっこうどれも面白く、好きな映画大漁の月になりました。
「8Mile」のラップバトルに影響され、エミネムのCDを買い、「アバウト・シュミット」のいつもの様な狂気に走らず、普通のおじさんを演じる、ジャック・ニコルソンの名演技に不覚にも涙を流し「六月の蛇」のモノクロで語られる、地獄へ落ちてゆく夫婦の業の描き方にうなり、「マトリックス・リローデッド」のカーアクションシーンにホホウと思い、「ロスト・イン・ラ・マンチャ」(ドキュメント映画)のたび重なるトラブルで苦悩するテリー・ギリアム監督がそれでも作品にこだわり続け、失った作品の権利を、自腹を切っても取り戻し、完成させたいと言う作家根性に脱帽し、「ギャングスター・ナンバー1」の久々のマルコム・マクダウェル(時計じかけのオレンジ)の怪演と、ねっとりと、からみつくようなイギリス・バイオレンスアクションの新鮮さを見直し、「めぐりあう時間たち」のトラウマを引きずった女性たちの、破滅に向かう押さえ切れない衝動をテーマに描ききった姿勢に、監督の優れた作家性を感じ、「ホテル・ハイビスカス」の演技とは関係なく、主演の素人丸出しの女の子の、元気いっぱいさに、子を持つ親として、とても元気をもらいました。

ということで、第8回の「心ぴく」映画コーナーで取り上げるのは、残った一つ「ハンテッド」です。
全く話題にもならず、すぐに終わったこの作品は、トミー・リー・ジョーンズ、ベニシオ・デル・トロ主演。ウイリアム・フリードキン監督という、たしかに若い映画ファンには何の魅力も感じない地味な印象の映画だと思います。
しかし、70年代社会派アクション映画ファンの私には、触手を動かす魅力的な映画に思われたのです。
ただ映画館へ行く前に、一抹の不安があったのも事実です。
軍の特殊部隊の一員で、トラウマを持った殺人犯デル・トロを追う、元教官のトミー・リー、この陳腐なほどよくありそうなストーリーには不安はなかったのですが(面白い映画は、往々にして、複雑な設定からは生まれてこず、単純でいい意味の遊びの演出が大量に出来る、余裕を持った作品から生まれてくることが多いと思います)ただ前作のフリードキン監督作品、「英雄の条件」があまりにもひどい映画で、まるで大好きな監督、リドリー・スコットの人間性を疑うほど、嫌いにさせられかけている映画「ブラック・ホーク・ダウン」を見た時と匹敵するくらい落胆した覚えがあるので、そのことに不安を覚え映画館に行ったのですが、これがなかなか面白い映画でした。
寡黙で、ほとんど何も語らない男二人が、正義とか悪とか(低レベル?)の、次元ではなく、闘争本能のおもむくままに、延々とナイフ一本で戦い続ける映画なのです。
クライマックスでは、二人ともナイフを失くし、森の中で、石器時代のように石でナイフを作ったり、鉄くずを熱し、まるで刀のようにナイフを作り出し戦い続けます。
前半描かれる、軍隊で、ナイフによる殺人術を、まるで動物をさばく様に機械的に兵士に教える教官、トミー・リー。その場面が効果的な複線となり、ラストの血みどろの戦いを盛り上げます。
この映画を見ていて、私は、敬愛する故ロバート・アルドリッチ監督の「北国の帝王」での、アーネスト・ボーグナインとリー・マービンの死闘を思い出しました。
やはりこの映画も、設定はかなり違いますが、男の意地と意地とがぶつかり合い火花を散らす映画で、ひさしぶりに「ハンテッド」を見て70年代映画のスピリッツを思い出し、嬉しくなりました。同時に傑作「フレンチコネクション」を世に送り出したウイリアム・フリードキン監督の復活に大いに拍手を送りました。
やはり男は多くを語らず、自分の尻は自分で拭き、あまんじて孤独を受け入れ、生きて、そして死んでゆく。これこそ理想的な男性映画のテーマだと確信しつつ、映画館を出ました。
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第7回 <NARC ナーク>

NARCナーク
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第7回「心ぴく」映画は<NARC ナーク>です。
今月は、仕事が、とにかく忙しかったのと、予期せぬ出来事があった為、「X−2」「シカゴ」「魔界転生」「NARC ナーク」と4本しか見られず、その中から、なんとか1本と言うことで選びました。

...と言うことで、突然話は変わりますが、そんな予期せぬ出来事で時間が無くなり、見たい映画が見られなくなるということを失くすために、アシスタントを募集します。
18歳以上で、性別は問いません。
初心者でも結構です。
どうしても漫画家になりたくて、そのためなら苦労を惜しまない人、歓迎!!
出来れば、私の仕事場、渋谷から出ている東急東横線、学芸大学駅近くに住んでいる人か、近くにアパートを借りられる人、希望。または、仕事場に寝泊りできる人。
無理なく自転車やバイクで通える程度の距離に住んでいる人。
それ以外の条件の人でも、相談に乗ります。

集英社/スーパージャンプ・編集部
担当・増沢氏(巻来功士、アシスタント募集係)までTELをお願いします。
Tel No. 03-3230-6216
(面接の時は、背景画と履歴書持参のこと)

では<NARC ナーク>です。
NARCとは、麻薬捜査官や麻薬をさす俗語で、密告者とか、嫌なやつと言う意味もあると映画雑誌に書いてありました。今年の初め、映画雑誌の小さな記事を見つけ、見たくてたまらなく、期待をしていた作品です。
主人公の麻薬捜査官・ニック(ジェイソン・パトリック)が、誤って妊婦を撃ち、謹慎処分になり、捜査官を辞めようと思っているとき、上司から警官殺しの捜査を命じられるところから話は始まります。
捜査の相棒には、その殺された警官の元相棒のヘンリー・オーク警部補(レイ・リオッタ)が選ばれます。これがこんでもない暴力刑事で、特に女、子供を虐待する奴を前にすると、見境がなくなり、半殺しにしてしまう、やっかいな熱血漢なのです。(この性格設定は、傑作「LAコンフィデンシャル」のバド・ホワイト刑事に似ている)どちらもトラウマを背負った刑事で、先の展開が読めない私の好きなタイプの話になっていて、期待させます。
主人公、ニックには生まれたての男の赤ちゃんがいて、妻は危険な警察の仕事を辞めて欲しいと思っています。「愛しているけど、あなたには付いていけない、別れる」と、しかし、ニックの刑事としてのDNAのような物が、家庭を破滅させても犯人を捕まえたいと動き出すのです。ここまではリアルな捜査シーンも非常に良く出来ていて、うならされます。
しかし、ラスト、どうしようもない感情でぶつかり合う男たちをストレートに描き出せば爆発力がある素晴らしい映画になったと思うのですが、単なる謎解きにしてしまったところに、この作品の弱さが現れたと思うのです。もう少し破滅に向かう男の感情を前面に押し出して欲しかったのです。
それが惜しい、全く惜しい作品です。
この監督ジョー・カーナハンの次回作は、トム・クルーズプロデュースの「M:I-3」と言うことですが、できれば次も脱ハリウッドのアメリカン・ニュー・シネマ調のハード・ボイルド・アクションを撮って欲しいものです。
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第6回 <リベリオン> <スパイダー 少年は蜘蛛にキスをする>

リベリオン スパイダー
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今月の「心ぴく」は先月とは違い、結構面白い映画がたくさんあった中から選びました。
ということで2本。
「リべリオン」&「スパイダー 少年は蜘蛛にキスをする」です。

「リベリオン」
SFです。第三次世界大戦が終わり、生き残った人類の指導者が、もう戦争は嫌だということで考え出したのが、人間の欲望を制御すれば争いは無くなるという方法。それは、人類全員に薬を飲ませ続けるというもので(かなり設定に無理がある)それで人間は感情のないロボットのようになっていました。しかし当然、素直に薬を飲まないヤカラはいるもので、地下組織を作り、違法になっていた名画鑑賞や音楽鑑賞を行っていたのです。それを見つけ出し、即座に抹殺する警察機構に属しているのが主人公で、ふとした事で薬を飲まなくなり、人間性に目覚めて、政府に戦いを挑んでゆきます。どこにでもある設定です。陳腐とまで言っていいほどです。お金が掛かってないのは見え見えで、この設定の映画には致命的なほどです。それなら、なぜ、お薦め「心ぴく」映画コーナーで紹介するのだ?とお思いでしょうが、陳腐で設定に無理があり、お金が、掛かってなくても、この映画は面白いのです。(私だけかもしれないが...)とにかく主人公が使う拳銃の技がすごい、ガン・カタと名づけられていて、空手の型のように拳銃を振り回し、一瞬にして10数人の銃で武装した敵を倒す技で、主人公はそのガン・カタの達人ときているから、とにかく子供のように、素直にカッコイイと呟いてしまうシーンのオンパレードなのです。主人公を演じたクリスチャン・ベールがはまり役で、今回は前作「アメリカン・サイコ」で見せた狂気とナイーブさが同居する演技にプラスして、ヒロイズムまで見せてくれていて、彼が主人公を演じたからこそ陳腐に成らずにすんだといえるほどです。ヒロイン役の演技派エミリー・ワトソン(「レッド・ドラゴン」の盲目の女性)も花を添えて、薄っぺらな物語に少々厚みを加えることに成功しています。まあレンタルビデオ屋で2,3ヵ月後に見かけたら期待せずに見てください。はまる人はとことんはまると思います。他の人はご容赦を。

「スパイダー 少年は蜘蛛にキスをする」
好きな人は大好きなデビッド・クローネンバーグ監督の最新作です。しかしコアな
クローネンバーグファンは肩透かしを食ったような物足りなさを感じるかもしれません。なぜなら、この作品には、怪物(ザ・フライ)も、超能力(スキャナーズ)も、異次元的幻想の世界(裸のランチ)(ビデオドローム)(イグジステンス)も、変態行為(戦慄の絆)も出てこないからです。CGなどは一切使わず、まるで舞台劇のように精神病患者を内面から描いた真摯な作品とでもいうのでしょうか、私は大変心打たれました。原作は、元精神科医が書いた、患者のドキュメントを扱ったベストセラーだそうです。それには患者の妄想の世界が丹念に描かれているそうですが、クローネンバーグは(裸のランチ)の失敗に懲りたのか、その妄想をCGで描き出すことなどせずに、地味なほどオーソドックスな映像にしたことがこの映画を完成度の高いものにしていると思います。出だしから延々と続くロールシャッハテストのような壁のシミ、この不気味さ、グロテスクさ一歩手前のタイトルロールから一気に引き込まれてしまいました。その画面とともに流れる美しい歌、その詩が映画の全てを物語って感動的です。主人公の患者を演じるレイフ・ファインズ(レッド・ドラゴンでも同じような役をやっていたが、やっぱりうまい)は当然のようにうまく患者の苦しみ悲しみを、その怯えた表情と呟きだけで表現し、他の役者も全てうまく、これまでのクローネンバーグ作品では得られない素直に心に響く作品になっていました。
ちなみに私の好きなシーンは、最後の夜、少年が車に乗せられて行くシーンです。少年の無表情さに泣かされました。特にクローネンバーグファン以外の人にお薦めの映画です。それに現実の世界が生きにくいと思っている人にも何らかの癒しを与えてくれるかもしれません。そんな映画です。
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第5回「心ぴく」特別編<今だからお薦めの戦争映画10本>

今だからお薦めの戦争映画1 今だからお薦めの戦争映画2 今だからお薦めの戦争映画3 今だからお薦めの戦争映画4
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今月の「心ぴく」は、「ロード・オブ・ザ・リング(二つの塔)」、「レッド・ドラゴン」、「リロ・アンド・スティッチ」、「戦場のピアニスト」、「ビロウ」、「ノーグッド・シングス」、「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」、「ピノッキオ」と見た中で、選ぼうかと思いましたが、どれもそれなりに面白く、しかし、どことなくヌルく、私の心臓にぴくっと来る所が少なかったので、今回は、世情に伴い、私のお薦めの戦争映画を紹介したいと思います。
私の好きだと思うキーワードは、戦争映画に関しては、昔から、「嘘が少ない」「正義と悪という単純な構図がない」「英雄が主人公ではない」「人間がしっかり描かれている」「現実と同じように、わずかな希望は残るかもしれないがハッピーエンドではない」(ただし、風刺の効いた戦争コメディーは別、好きなもの多し)他にもありますが、だいたいこれだけは映画の要素としてないと、許せない映画になってしまいます。ということで、10本。

「戦争のはらわた」原題<鉄十字><1977年度作品>
私が最もお薦めのサム・ペキンパー監督の傑作。第二次大戦のドイツ、ロシア戦線を舞台に、ドイツ兵の上官(マキシミリアン・シェル)と部下の伍長(ジェームズ・コバーン)の確執をえがき、リアルな戦闘シーンの果てに戦争の無意味さバカバカしさを浮かび上がらせる。最初とラストのニュ−スフイルムと共に流される「蝶ちょの歌(原曲ドイツ民謡)」が心を打つ。今だから必見の作品。
「ソルジャー・ボーイ」<1972年度作品>
ベトナム戦争に従軍した4人の若者が、アメリカに帰国した後に起こす戦争の話。国の為に行った戦争が泥沼化し、英雄として出撃した若者たちは一転、殺人者の汚名を着せられ帰国する。予想もしなかった冷たい目にさらされた4人は、ある田舎町で、たった一言の住民の言葉にそれまでの鬱憤を爆発させ、町全体を敵に回し戦争を行う。いつの時代の戦争も醜悪な老人が起こし、例え彼らが勝ったと喜んだとしても、最前線で戦った若者たちの精神には取り返しがつかない傷(トラウマ)を残してしまうという事実を教えてくれる作品。
「フルメタル・ジャケット」<1998年度作品>
監督スタンリー・キューブリック。前半、後半に分かれた作りになっていて、特に前半の兵学校での描写がすごい。どうやったら人間が平気で人間を殺せるようになるのか、どうやったら殺人機械が出来上がるのかをていねいに見せてくれる。そして殺人機械になれなかった欠陥品が壊れていく様も...。戦争というものは、狂気以外の何者でもないことを教えてくれる作品。
「ノー・マンズ・ランド」<2002年度作品>
2002年度・巻来功士映画ベスト10に記載
「ソルジャー・ブルー」<1970年度作品>
カスター将軍のインディアン(ネイティブアメリカン)虐殺の事実をリアルに描いた作品。女子供を容赦なく殺すその描写は吐き気をもようすほど。当時はアメリカ軍のベトナムでの虐殺事件(ソンミ村で、非戦闘員の住民を多数虐殺した事件)が話題になり、それを、舞台を変え映像化したといわれていた映画。とにかく戦闘というのは、頭がパニックになった人間の殺し合いなのだ、正義とか悪とかでは全然ない、生き残るという本能に突き動かされる哺乳類の姿がそこにあるだけ、そういうことを実感させてくれる作品。
「サルバドル」<1987年度作品>
オリバー・ストーン監督作品。南米のエル・サルバドルの内乱で実際に起こったアメリカ人女宣教師たちが何者かにレイプされ殺された事件を題材にし、主人公のアル中でろくでなしのカメラマンが政府軍とゲリラの戦争の真っ只中、事実に迫っていくと言う話。アイドル系の顔をした副主人公の宣教師が殺され無残な死体もしっかりと見せる描写に監督の気骨を感じる。当時のアメリカ政府がどのように南米に介入し、ボロボロにしていったか、非常に勉強になる作品。中東もそうならなければいいんだけど...。
「アンダーファイア」<1985年度作品>
これも南米の内乱でアメリカの報道カメラマンが実際に殺された事件をもとに作られた作品。ニック・ノルティー、ジーン・ハックマン、エド・ハリス共演で、アメリカ政府が後ろについている政府軍の兵士に殺される役がジーン・ハックマンでその恋敵(副主人公の女カメラマンを巡って)の主人公のカメラマンにニック・ノルティー。そして陽気で冷酷なアメリカ人傭兵にエド・ハリス。やはりアメリカのパワーゲームの恐ろしさがキチンと描かれていて、フセインのような独裁者がどのようにして作られるのかがわかります。政権が転覆した後の傭兵エド・ハリス。いい味出してます。やっぱりうまい。
「楽園をください」<2000年、日本公開作品>
一昨年の作品です。南北戦争が舞台の若者の成長物語で主人公はトビー・マグワイヤ(スパイダーマンの主役)で、家族を守る為に南軍に入隊します。南軍イコール奴隷制度を守る悪役、北軍、奴隷を解放するいい人などと単純に描いてなく、同じ町の友達同士でも親戚の関係で南北に分かれて戦わなければならなかったという事実が分かり驚かされます。しかし少し想像すれば分かることで、戦争とは生き残ること、その為には、僅かでも生存の方向に組するのが人間です。戦争において相手を殺す戦争というのは、その国の指導者個々の正義と正義のぶつかり合い、つまり政治的に生き残る為の個人的な戦いなのです。その駒に使われるのが、国民なのです。しかし、その政治家の正義を自分の正義と勘違い し、その戦争に進んで参加したがるのもまた国民なのです。そういう所がしっかりと描かれた良い映画です。
「マーフィーの戦い」<1972年度作品>
第二次世界大戦の英国軍兵士(ピーター・オトゥ−ル)が、戦争が終わってもたった一人で、疲れ果てたドイツのUボートを必要に追いまわし沈めようとする映画。<アラビアのロレンス>で見せた、憑かれたような演技がますます冴えて、戦争に憑かれた者の業のようなものを浮かび上がらせます。
「拝啓天皇陛下様」<1963年度作品>
名優、渥美清主演の日本映画の傑作。どこにでもいる庶民の側から太平洋戦争を描いている。確かに、自分が同じような環境に置かれた時を想像すると、うなずけるところがたくさんあり、今の戦争の中の、イラク兵、アメリカ兵の気持ちも想像でき、戦っている者が、特別な人間などではなく、普通の人間だと改めて確信できる。国の為、正義の為、という建前の後ろにある個人個人の本当の訳、<みんな大変なんだろうなあ>と考えるだけで意味があると思う。そんな単純で、最も重要なことを笑いながら考えさせてくれる作品。

まだまだ素晴らしい映画はあるのですが、とりあえず戦争の真実を伝えていると思う作品を並べてみました。どれもかなり重いです。暗い気持ちになるかもしれません。しかし戦争とはそういうものなのです。けっしてスカッとするものでも、晴れ晴れした気持ちになるものでもありません。だからこそ今見て欲しいのです。
80年代後半から明らかにハリウッドの戦争映画は変わりました。ほとんどが娯楽アクション映画であり、舞台を戦場に移しただけの能天気なファンタジーです。(始末の悪いことに、近頃はリアルさを装い悲劇というスパイスで味付けされた、アメリカ人限定の感情移入できる悲劇のファンタジー映画が出現している。これはアクションファンタジー映画より、真実っぽいと言う衣をかぶっているだけ、罪が重いと思う。)こんな映画ばかり見ていると、戦争賛成と、つい言ってしまう気持ちは分かります。誰も何も教えてくれないんですものね。
私の子供の頃もそうでした。まだ親が戦争体験者ですから、たまに話を聞き戦争は絶対やってはいけないと思いましたが、やはり言葉というのは映像より重くなく、あのベトナム戦争の血だらけのニュース映像を見ていなければ、つい正義の為の戦争が実在するというファンタジーに捕われていたかもしれません。
しかし、どういうわけか、それからすぐに、真実は残酷すぎると言うことで、ニュースから、いっさい悲惨な映像は消え失せてしまったのです。
あの映像を見てしまった私たちの世代でさえ、いい戦争もあると、つい考えてしまう人もいる事を思うと、今のメディアの作り出す戦争ゲームのような映像を見て育った人々の気持ちを思うと、暗澹たる気持ちになってしまいます。だからこそ、このような映画を見て、誰も教えてくれない戦争の真実を少しでも理解して欲しいと思うのです。
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