心ぴくコーナー

このコーナーは、私(巻来功士)が、今月見た映画の中で、心臓がピクピクするほど感動及び興奮、または憤慨?した作品を紹介するコーナーです。

第45回 <硫黄島からの手紙><リトル・ミス・サンシャイン><ラッキーナンバー7><あるいは裏切りという名の犬><それでも僕はやってない>

第44回 <父親たちの星条旗><トゥモロー・ワールド><007 カジノ・ロワイヤル> 2006.12.14

第43回 <40歳の童貞男><ホステル> 2006.11.03

第42回 <スーパーマン・リターンズ><マイアミ・バイス><トランス・アメリカ><太陽> 2006.09.17

第41回 <プルートで朝食を><サイレント・ヒル><蟻の兵隊> 2006.08.02

第36回〜第40回 第31回〜第35回 第26回〜第30回

第21回〜第25回 第17回〜第20回 第13回〜第16回

第9回〜第12回 第5回〜第8回 第1回〜第4回

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<硫黄島からの手紙><リトル・ミス・サンシャイン>
<ラッキーナンバー7><あるいは裏切りという名の犬>
<それでも僕はやってない」>

洋画 邦画

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第45回目の心ぴくです。今回は「硫黄島からの手紙」「インビジブル2」「リトル・ミス・サンシャイン」「長い散歩」「ラッキーナンバー7」「あるいは裏切りという名の犬」「ディパーテッド」「それでも僕はやってない」の8本です。

「インビジブル2」
テレフィーチャーのような映画。バーホーヴェン監督の<インビジブル>とは全くの別物。
クリスチャン・スレーターに出る映画を選べと言いたくなるような作品。
「長い散歩」
なかなか面白い、老人と虐待を受けている少女のロードムービー。少しファンタジックな画面作りと尻切れトンボのようなラストが好みと合わなかった。しかし監督の独創的な話作りは見事なもの。次回作も見に行こうと思いました。

「ディパーテッド」
大好きな監督マーティン・スコセッシの監督作だということで、大期待で見に行った映画。
香港映画の傑作<インファナル・アフェア>のリメイクだということで期待も高まりましたが、サスペンスの命であるハラハラドキドキ感が内容を知っていたせいか、全然湧いてこず、感情移入できずにラストシーンを迎えてしまいました。ラストだけは<インファナル〜>と変わっていて驚くことができ、少しだけ楽しめましたが、やはり人間ドラマに本領を発揮するスコセッシ監督のサスペンスアクションの演出の冴えは鈍く、<インファナル〜>の脚本をズタズタに書き換えてもスコセッシ流の、マフィアと警官の業を描いた人間ドラマにしてもらいたかったものです。豪華な俳優陣は熱演していただけに、ものすごく惜しい作品です。スコセッシ監督の次回作に期待します。

というわけで今回の心ぴく映画は「硫黄島からの手紙」「リトル・ミス・サンシャイン」「ラッキーナンバー7」「あるいは裏切りという名の犬」「それでも僕はやってない」の大漁5本になりました。

「硫黄島からの手紙」
<父親達の星条旗>に劣らぬ傑作をまたまたクリント・イーストウッド監督が作ってくれました。暴力や戦争の空しさを語るイーストウッドの視線は完璧です。ほとんどの優れた彼の作品と同様で、ぶれる事のない監督の主張が見事なほどに表されていて感動させられました。
登場人物のほとんどは日本人ですが、出番が少ないアメリカ兵たちの描き方も、肌の色が違う事など関係なく、個々の人間として描く監督の公平な目線には尊敬の念が自然と生まれてきます。
登場人物たちの運命の皮肉を描ききり、それによって生まれるもの消えうせるものを冷静に見つめる描き方には本当に感嘆させられました。
この冷静に戦争と言うものを見つめる目線をもった監督は残念ながら今の日本にはいません。数少ない年長の監督がいたとしても映画をとることはできません。断言できます。
映画会社が許さないのが目に見えているからです。
当然、今のメジャー系の若手監督に撮れるはずはありません。彼らが手本にしているのはハリウッド系の娯楽大作や日本製のロボットアニメでしかないからです。
去年の日本製戦争映画やパニック映画の酷かったこと。戦争について何の勉強もしていないのか?それとも興行収入だけを考えて儲けたいためだけに作っているのか?もしかしたら描きたいのに描いてはいけないと言う圧力を感じてそれに負けてしまったのか?それともそんな作品を本当に傑作と思って作っているのか?四つ目だったら呆れてものも言えませんが、これも今の日本ではありそうで怖いです。
いずれにせよ、上記に当てはまる場合には戦争映画は作ってはいけないと私は思います。
そんな固いこと抜きでいいんじゃない、というような声には私は断固反対です。
それは少なくとも国民全てが太平洋戦争に対する共通認識を持ちえてからじゃないと駄目だと思うからです。いまだもって戦争を英雄的な行為だというだけの視点から見て、戦争が不幸しかもたらさない絶対悪だということに考えが及ばない妄想で戦争を語る人が多数存在する国ではなお更です。
絶対悪だと認識していれば、とんでもない戦争ヒーローものもファンタジーとして笑って見られると思うのですが、歴史教育も意識的に近代をぼかして教えている国ではそんなファンタジーを事実と思って語る人が少なからずいると思うのです。それが本当に恐ろしいのです。
妄想に駆られた某漫画家の意見が若い人の思想を左右する国は特にそうでしょう。
この「硫黄島からの手紙」はそのことを事実として冷静に描いています。
冷静に戦局を分析する指揮官をすぐに卑怯者と決めつけ、圧倒的な敵の破壊力を目の当たりにすると、すぐに負けだと決め付け自殺と同様の自決をしてしまう。
すべての物事を冷静に見ることができず、妄想に逃げ込んでそれを信じ込み犯してしまう愚かな行為。
その事実を冷静に見つめる目がない限り、日本人の本質は大戦当時とあまり変わっていないと思うのです。だからそんな人にこそ見て欲しい映画なのです。
これが戦争の本質です。ファンタジーではないのです。ある評論家は良い映画だが自決のシーンが酷すぎると書いていました。とんでもないことです。戦争を何だと思っているのでしょうか?お涙頂戴のアクション映画だと勘違いしているのではないでしょうか?戦争とは酷いものなのです。酷さを描かない戦争映画は、今もまだ国家の暴力である戦争にさらされている人々を見捨てる行為、存在しないものとする行為と同様だと気付かなければなりません。それが戦後一人の戦死者も出さずにやってこられた国民の責任であり誇りだと思うからです。
戦争はアニメではないのです。ゲームではないのです。一度戦場に出てしまえば、いやになってもオフできないのです。
敵が攻めて来たら戦う。そんなことを平気で、簡単に言ってしまう人に本当に見て欲しい映画です。暗いとかスカッとしないから見に行かないとか言っている人。そうです、暗くスカッとしません。でもそれが戦争なのです。それでも本当の戦争に、この平和な社会で起こるムカつくことより、少しでもスカッとする要素が本当に含まれていると思っている人。
ぜひともフランス外人部隊に入隊してください。そして戦地へ赴き戦争を体験してください。それでも考えが変わらなかったら私は土下座します。そんなことを考えさせる傑作です。戦争に未来はない。少なくとも、本当の意味でのシビリアンコントロール(文民統制)が絶対にできないと断言してもいい今の日本人には、戦争の後の未来は存在しません。本当の民主主義の国しか絶対悪である戦争をうまくやり、終わらせることはできないのですから。なぜなら国民が戦争を選択し、嫌気がさして終わる。これが歴史を見ても普遍的な道だからなのです。しかし、いまだもってお上意識があり、メディアが政府に気を使わざるを得ない、本当の民主主義だとは言いがたいこの国においては、まるで熱病のように政府に国民が踊らされた結果、国の都合で戦争を起こし、終わらない公共工事のようにだらだらと戦争を続けていくことでしょう。そして先の大戦のように破滅へと向かうのです。そうなって後悔しても遅いのです。だから絶対に戦争を起こさない為の外交努力が最も重要なのです。そんなことを改めて認識させられた、大傑作です。絶対に見てください。

「リトル・ミス・サンシャイン」
今のアメリカの病んだ部分を痛烈に風刺した傑作コメディー。
大金を得ることばかり考えている父親。幼い娘の美人コンテスト出場に意識を向けることによって現実逃避しようとする母。ゲイの友達に捨てられ、論文も盗まれた数学者の叔父。パイロットに憧れ、テスト合格の為、願掛けとして、嫌いな家族全員と一切口を利かなくなったハイティーンの長男。そして老人ホームで問題を起こし追い出された薬中のお爺さん。その面々が成り行きで、娘の出場するコンテスト会場までおんぼろ車で旅をします。私はこのプロローグだけでワクワクしました。その旅の先々で、家族それぞれの心の内が露になっていくと、こちらも物語にドップリと漬かり笑って泣かされることになります。
役者は皆とても良いです。ラストのジョンベネちゃん事件への痛烈な風刺が、アメリカ映画の健全性を示していて、痛快です。今の日本映画が無くしてしまった、社会風刺という健全なコメディー映画の視線がここにあります。これこそ庶民の映画です。
自分が偉い人だと思っている人は分かりませんが、少なくとも自分は出来そこないかも知れないが、お天道様に顔向けできない生き方はやるまいと思っている大多数の(?)庶民の方々は大満足できる作品だと思います。
ぜひとも見てください。笑って泣いて元気をもらって、自由の素晴らしさが味わえます。
そんな傑作です。

「ラッキーナンバー7」
シニカルなギャング映画の佳作<ギャングスターナンバー1>を撮ったイギリス人監督ポール・マクガギンの新作です。前作同様、次の展開が全く見えない演出は見事で、飽きさせません。しかし前半はコメディー風展開が勝ちすぎていて、すこし怪しくもなりましたが、
後半からの、そのコメディー演出を複線にしたシリアスな展開は目を見張るものがあり、
しっかりと主人公に感情移入して胸が熱くなりました。初めて主人公を演じたジョシュ・ハートネットが上手い役者だと感じ、ヒロイン役のルーシー・リューを可愛いと思いました。
そしてブルース・ウィリスのカッコよさ、ひと言で言えない奇妙な面白さに満ちた作品です。先入観無しで見てください。きっと楽しめると思いますよ。お勧めです。

「あるいは裏切りという名の犬」
ハードボイルド映画の傑作です。原題はパリ警視庁の番地を表す数字で、なかなか渋いのですが、日本の題名は何故かこんなことになってしまいました。フランス映画です。
しかしフランス映画を見慣れていない人でも大丈夫。スピーディーな展開で男の意地とアクションが展開します。飽きさせません。すぐに男が惚れる男、という主人公に感情移入してハードな世界に入れます。警察内部の権力闘争と武装強盗事件が平行して描かれます。
主人公の部下の警官達もしっかりと血の通った人間として描かれていて、ただのアクション映画ではなく、人間ドラマとしても一流です。だから主人公に降りかかる不運と、
そのことにケリをつけるために一丁の銃を手にするクライマックスは生唾モノの興奮に浸ることができるのです。そして訪れる余韻を持った、男の友情と、家族との愛が描かれるラスト。傑作です。
ちなみに、この映画をノワールの傑作と宣伝文に描いてあるのをよく見るのですが、私は違うと思います。この映画は基本的に善なる主人公が、どんな困難に遭遇しても己の意思を貫く様を描いています。どうみてもハードボイルドの主人公です。
ノワールとは、善悪関係なく男が自分の価値観を捨てられずにもがき爆発する様を描いた
どうしょうもない人間ドラマだとわたしは思うのです。だから一線を越えた男が主人公で、
破滅の美学を描いたものがほとんどなのです。しかしこの映画の主人公は一線を越えてはいません。それは爽やかとも思えるラストにもいえることです。
私の意見をどう思うかは、ぜひとも劇場で観て判断して下さい。おもしろいですよ。
私は、ハードボイルドの傑作だと思うのですが・・・。

「それでも僕はやってない」
周防正行監督、期待の新作です。
社会派映画の佳作らしいです。痴漢冤罪事件から今の日本の裁判制度の欠点を浮かび上がらせた映画だということです。怖い映画です。新聞の映画評で、周防監督の勇気に敬服すると書いていた人がいました。
なぜ裁判制度の欠点を描くことに勇気が必要なのでしょうか?たんに欠点があれば正せばいい、それだけのことではないのでしょうか?
本当にそんな重大な欠陥を治せばいいと主張することができない、声をあげにくい、そんな国は絶対に、民主主義が必要条件であるはずの先進国ではありません。
周防監督は事実をありのままに描いたと言っています。それが本当なら、民主主義の先進国である日本なら、すぐに司法のあり方を根本的に見直すはずです。
当たり前のことでしょう。
百歩譲っても、この映画に描かれた、この主人公を取り調べた警察、検事、代用監獄、裁判所はとても先進国のものではありません。そうです周防監督はきっと架空の国(?)の事を描いているのです。
私は罪を犯したことも、冤罪をかけられたこともないので分かりませんが、もしも、この映画に描かれた国(?)で主人公と同じ立場に置かれれば、気が弱い私は確実に気が狂うでしょう。
「近頃、人権人権とうるさいから日本が駄目になった」という人がいます、この映画に描かれた国(?)に行けばいいのです。人権なんてありませんから。疑いをかけられただけで、まだ犯人と決まったわけでもないのに、警官の眼の前で身体検査と称して裸にされ、刑務所と何の変わりもない代用監獄に入れられる。たしか国連が人権無視だから代用監獄はやめるように日本にはたらきかけていると、何かで読んだ記憶があるのですが、それがもしもホントだったら、民主主義で先進国の日本では、とうにそんなものは廃止され、無実の罪の人があんなヒドイ目に合うことはないでしょうから安心です。
とにかくそんな怖い映画です。まるで軍国主義時代の官僚組織が、そのままの形で残された、悪夢のような架空の日本(?)の姿が描かれています。その国では、民主主義だと嘘をついて、官僚組織である警察や裁判所などの運営をスムーズに行う為だけに、警察が起訴した人間の約99パーセントを無罪の証拠がないからといって有罪にしているのです。その国(?)では「疑わしきは罰せず」という民主主義国では当たり前のルールも当然無視されて「疑わしく無罪の証拠がないものは罰する」となっているのです。
もっと恐ろしいことは、どうやらその国(?)の国民は、金銭的に豊かなこと以外に感心がない様で、マスコミさえも企業としての業績を上げることだけに必死で真実を語ることに何の興味も持っていない・・・。
恐ろしい、本当に恐ろしくて気が狂いそうになるホラー映画です。
皆さん是非見てください。私が今まで見たホラー映画の中で最も怖いと断言しても良い映画ですから。
巻来功士大絶賛、絶対お薦めの、全国民が見なくてはならない超傑作映画です。

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<父親たちの星条旗><トゥモロー・ワールド><007 カジノ・ロワイヤル>

<父親たちの星条旗><トゥモロー・ワールド><007 カジノ・ロワイヤル>

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第44回目の心ぴくコーナーです。
今回は「父親たちの星条旗」「カオス」「アンノウン」「ナチョ・リブレ 覆面の神様」「トゥモロー・ワールド」「テキサス・チェーンソー ビギニング」「麦の穂をゆらす風」「007 カジノ・ロワイヤル」の8本です。

「カオス」
カオス理論を参考にして完全犯罪を実行するという話。近頃よくある、どんでん返しのオチの為に作られたストーリーという感じで、豪華俳優をそろえたわりにリアリティーが乏しい作品になっていたと思います。

「アンノウン」
これもカオスと良く似た作りで、とても起こりえない状況はお遊びとして面白いのですが、
どんでん返しのために、登場人物の人格をころころかわるゲームの駒のように扱っている展開に、少し感情移入出来ないところがありました。

「ナチョ・リブレ 覆面の神様」
大好きな脱力系映画<バス男>の監督作です。所々監督の良さが出て笑わせてくれるのですが思ったほど毒がなく、あっさりした映画になっていました。次回作に期待という感じです。

「テキサス・チェーンソー ビギニング」
この、テキサス・チェーンソーシリーズの中で最も救いのない映画だと思います。醜悪な展開の数々はそれなりに目を見張るものがありましたが、そのまま終わってしまったという感じで、気分が落ち込み帰途に着きました。そんな気分が味わいたい人向けの映画です。

「麦の穂をゆらす風」
アイルランドの悲劇の歴史を描いた期待作です。期待しすぎたせいか、もっと壮大な広がりのある人間の業まで浮き出させる演出で描かれるのかと思ったら意外とステレオタイプのこじんまりした感じでした。
庶民の悲劇を描きたかったのでしょうが、中心人物たちが明らかに英雄の演出で描かれていて、イギリス=悪、アイルランド人革命家=善、国を思ってイギリスの条約を受け入れたアイルランド人=善、と描かれ、善と善の戦いが悲劇を生むという古典的とさえ思えるほどの演出に少しついていけませんでした。そのどちらにでも揺れ動く普通の人間の側からアイルランドの悲劇、戦争の空しさを見たかったものです。主人公が曲者キリアン・マーフィーだったので期待したのですが・・。ニール・ジョーダン監督の演出で見たかったなあ。私にとってはすごく惜しい作品です。

というわけで今回の心ぴく映画は
「父親たちの星条旗」「トゥモロー・ワールド」「007 カジノ・ロワイヤル」
の3本です。

「父親たちの星条旗」
傑作です。おそらく私的には今年ベスト1の映画だと思います。まずイーストウッド監督の描くこの映画のテーマが、彼のどの作品とも同じものであるという事が素晴らしいです。深く人間を見つめ、けっして戦争だけをテーマとして描こうとはしていないのです。
言葉だけの戦争反対という薄っぺらなものではなく、本能としての暴力とその結果、自らに降りかかる不幸を人間の原罪、あるいは業として描くというスタンスは全く変わっていないということです。だからここには過剰に演出された英雄譚などありません。
等身大の人間達が死に、生き残ります。乾いた銃声と、自決する日本兵の塹壕から響く手榴弾の炸裂音、どんなに声高に戦争反対と叫ぶより、このシーンを見るだけで心の底から戦争が、国家の暴力行為以外の何物でもないということに気付かされます。
映画の中に印象的な言葉があります。私の大好きな言葉です。
「どの時代も、戦争に行かなかったものだけが戦争をあおる。戦争に行ったものは、二度とその事を語ろうとしない。」という言葉です。このひと言で戦争の実態を明らかにした後で、戦費調達のために英雄にされてしまった三人の米兵達の人生を追っていくのです。国に帰り葬儀屋になっても傷ついた兵隊の助けを呼ぶ声が耳から離れない元衛生兵。
英雄という仮面を付け富と名声を得ようとするが、落ちぶれ掃除扶となる元通信兵。星条旗を立ててもいないのに、英雄に祭り上げられ、その後の人生を後悔することに費やし、酒に溺れてゆくインデアンの元兵士。みんなの人生を狂わせたのは戦争という巨大な暴力だと静かに訴えてくる演出は、お遊び的映像を作る若手監督が増えた中において、かえって新鮮に見えてきます。とにかく素晴らしい映画です。戦闘が終わった後、普通の若者が国家の始めた戦争の為に人殺しになったその後、若者らしくはしゃぐ彼ら、兵士達が映し出されます。
その落ち着いた映像の中の若者達のどこかに心底からはしゃげない姿が見て取れ、目頭が熱くなりました。本当の傑作を是非見てください。超お薦めの作品です。

「トゥモロー・ワールド」
意外な拾い物的傑作SFです。1970年代のスタ―ウォーズ以前の、私のお気に入りの社会派SF「ソイレント・グリーン」や「地球最後の男オメガマン」を髣髴とさせます。
その何倍も制作費をかけて作られているので、子供が生まれなくなった世界がリアルに描かれていきます。
国家の暴力やテロが吹き荒れる世界で、主人公は必死で赤ん坊とその母親を守ろうとします。その主人公は元官僚であるという設定なので当然武器など使えません。素人なのにすぐに英雄のように活躍するSFの設定だけを借りたアクション映画と根本的に違う点がココです。このリアルさが純粋SFの真骨頂です。だから最後まで主人公は武器を持ちません。マシンガンを乱射したりしません。それでも赤ん坊を守り抜きます。
グット来る演出です。BGMにジョン・レノンの曲が流れます。ラストも素晴らしい。70年代のアメリカン・ニューシネマファンやSFファンには絶対にお薦めの映画です。

「007カジノ・ロワイヤル」
全く新しい007の誕生だと見終わったあと心の中で拍手してしまいました。
新しいハードボイルド主人公の誕生です。
ハードボイルドに秘密兵器など必要ありません。陳腐になるだけです。
だから新ボンドは肉体とサイレンサー付オートマチックだけが武器です。
最初の殺しのリアルさ。カジノでのスタッドポーカーシーンのぞくぞくする楽しさ。
そして拷問シーンのえげつなさ、どれをとっても凶暴な非合法特殊工作員のニオイがぷんぷんと漂い心地良い緊張感が全編を支配しています。
アクション映画としても一級品で、あっけないラストと見せかけて、すごくかっこいいシーンで締めくくるエンディングは見事で唸らされました。
必ず作られるであろう次回作も大期待です。
そんな傑作ハードボイルドなアクション映画です。お薦めです。

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<40歳の童貞男><ホステル>

<40歳の童貞男><ホステル>

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第43回の心ぴくコーナーです。
今回見た映画は、「40歳の童貞男」「マッチポイント」「ゆれる」「もしも昨日が選べたら」「イルマーレ」「カポーティ」「レディ・イン・ザ・ウォーター」「地獄の変異」「ホステル」「ブラック・ダリア」「16ブロック」の11本です。

「マッチポイント」
ウッディ・アレン監督作です。珍しくシリアス路線の映画ですが、ラストのどんでん返しはブラックコメディーそのもの。人間ドラマや青春の焦燥感を描いた映画だと期待していったらはずれかもしれませんが、私は楽しめました。

「ゆれる」
日本映画の傑作と週刊誌に書いてあったので見に行きました。
期待しすぎたせいか、リアリズムの無さが気になりました。役者は全て良かったのですが(なかでも兄役の香川照之の演技はすごかった。今活躍中の演技派と言われる役者の中でナンバーワンの実力ではないだろうか)兄と弟の葛藤の演出が少し漫画的に写りました。
実力者俳優ばかり出ていたので惜しい限りの作品です。

「もしも昨日が選べたら」
ベン・スティラーより少しソフト路線のコメディアン、アダム・サンドラー主演のコメディー映画です。万能リモコンで全てを操ることが出来たら・・。というドラえもん的たわいも無い話を手堅くまとめています。結構最後まで楽しく見られて、お約束のラストに目頭が熱くもなりました。楽しい気持ちになりたい人にはお勧めです。

「イルマーレ」
ラスト近くまでは二人の恋の行方に、はらはらもしましたが、ラストの口あんぐりの展開にはとてもついていけませんでした。まだアメリカ映画は、こんなことやってんだ的映画。

「カポーティ」
お気に入りの俳優フィリップ・シーモア・ホフマンがめでたくアカデミー賞主演男優賞を受賞した作品です。期待しすぎたせいか、さすがに演技はすごく良かったのですがストーリーが一本調子な感じがして作品的広がりが感じられませんでした。ラストにやっと少し深く人間性がでる演出がなされていたことにホットしました。そんな映画です。

「レディ・イン・ザ・ウォーター」
とんでも映画の鬼才M・ナイト・シャラマン監督最新作。登場人物の人間性がまったく感じられない前半は本当に席を立って帰りたくなりました。しかし後半になり、やっと監督が全く人間ドラマに興味がなく、異世界のファンタジーを撮りたかったのだと分かりました。(それなら場所をわざわざフィラデルフィアなんかにしなくても良かったようなものを・・)とにかくこの映画自体がロールプレイングゲームのように作られていると理解できたときに面白さが伝わってきました。ラストなど少し感動ものです。そこまで投げ出さずに見られたら面白いと思える映画です。

「地獄の変異」
地下に住む吸血蝙蝠人間達と襲われる探検隊の物語です。舞台はルーマニアの寺院の地底で、緊迫感が良く表現されていてはらはらします。演出も立派なもので最後まで飽きさせませんがラストがいきなりB級ホラーになってしまいました。惜しい映画です。

「ブラック・ダリア」
大期待してしまったジェームズ・エルロイ原作の暗黒小説の映画化です。監督が当たり外れの多いブライアン・デ・パルマだったので少し警戒して見に行けばよかったのですが。
やはり同じ原作者の大傑作<L・Aコンフィデンシャル>を思い描いたばかりに少し肩を落として映画館を出ました。面白いことは面白かったのですが、人間の心の喜悲よりもサスペンスシーンが好きな監督らしく、次々と場面が展開し、殺人シーンや惨殺シーンの印象的な見せ場作りには唸らせられる所がありました。<L・A〜>のようにと期待しなかったらもっと楽しめた映画だと思います。

「16ブロック」
わずかに残ったアクション映画の職人監督リチャード・ドナー作品ということで見に行きました。最後まで飽きさせない所は流石という感じでした。しかしその一つ前の世代の職人監督(たとえばドン・シーゲルやロバート・アルドリッチ)のような毒が全く感じられません。見終わったあとは肩透かしを受けたような印象を持ちました。次に期待という感じの作品です。
というわけで今回の心ぴく映画は「40歳の童貞男」「ホステル」の2本です。

「40歳の童貞男」
最初から爆笑シーンの連続です。危ないギャグをさらりと見せるところは、アメリカのコメディー映画の底力を見せつけられる思いがしました。そもそもギャグは危ないほど面白いと思うのですが、近頃はそれで最後まで突っ走る気骨のある映画が中々見当たらず気落ちしていた所に救世主のように現れた作品です。お涙頂戴になんか走らずに最後まで馬鹿になりきる、コレこそが私の求めていたコメディー映画です。しかしなんと大東京で立った一件の単館ロードショウ、ほとんどの映画館でやっているのは泣きたい人向けの日本製癒し系映画ばかり、この国の人は新たな刺激など求めずに内へ内へと向かい誰かの膝の中で泣きなが子供のように眠りたい、そんな現実逃避の妄想癖がある人ばかりになってしまったのではないかと疑うほどです。少なくとも今の映画やテレビドラマを見ていて私はそう感じます。
ソレが証拠に今の日本映画で元気なのは女性監督だけ、他はプロデューサーであるテレビ局の顔色を伺ったような、愛と正義を感動で包んだ底が浅いお役所仕事のようなものばかり、そろそろやりたいものをやる人が出てきてもいいと思います。それも子供の発想ではなく大人としての発想の映画が・・。大人の映画とは監督にしっかりした大人としての良識があり作品はフィクションとしてその良識をどれだけ踏み出すか、その危うさが刺激的な作品を生み出すという計算が出来る人です。逆に子供の発想の作品とは良識とか関係なく、面白ければ良いじゃん的な独りよがりの作品。または餌目当て、報酬だけを当て込んだそんな作品です。どうも今の日本映画は観客抜きのこんな子供の発想の映画ばかり溢れていると思うのですがどうでしょうか。狂気を演じられるのは良識があるからだ、といったのはたしか作家の筒井康隆だと思いますが、私も確かにそう思います。良識がある大人が作った危なく刺激的なコメディー映画、それがこの作品です。おそらくこれからは劇場で観ることは出来ないと思うのでレンタルでどうぞ。面白いですよ。

「ホステル」
これはまぎれもなく大人の映画です。18歳未満おことわりなのですから。
つまり「子供は見るな」と腰をすえて大人のエンターテイメントを作っているのです。
大人物の映画は基本的に何をやっても良い、それが表現の自由だと私は思います。嫌な人はわざわざお金を払って劇場に見にこなければ良いのですから。
そんな何の問題も無いものを、これは道徳に反するとかお上が言い出したとしたら、本当に怖いことになってしまいます。
ということで、とにかく、良識を持った大人にしかお薦めできません。
これが絵空事として楽しめる大人しか見ないほうがいい映画です。
子供とは影響を受けやすい存在です。だからこの強烈な映像が頭から離れなくなり、影響など受けるような、子供のような精神状態の人には絶対にお薦めできないのです。
それほど強烈な劇薬のような映像の連続です。お金を払えば快楽殺人をやらせてくれる組織に、その餌食になるために捕らえられた若いバックパッカー達の、文字通りの地獄の体験を描いています。監督はホラーの佳作<キャビン・フィーバー>のイーライ・ロス。
その計算され尽くされた演出は1級品です。サム・ライミのように他のジャンル作品でも
傑作を作れる人だと思います。その証拠にグロイ演出はあるのですが、胸の悪くなるような演出はギリギリ避けています。それは全編に渡り、一線を踏み越えてはいません。
だから後半のサバイバルの演出に手に汗握ることが出来るのです。ただの変態グロ映画では絶対に湧き出てこない感情です。そして最後には、ある種のカタルシスまでも味わえるのです。この手の映画では今まで感じたことのない気持ちにさせてくれた革新的映画、そう私に思わせた作品です。おそらく「ホステル」以前と以後でホラー映画は変わる。
そう感じさせてくれた心ぴく映画です。絶対にお薦めはできませんが・・・傑作です。

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<スーパーマン・リターンズ><マイアミ・バイス>
<トランス・アメリカ><太陽>

<スーパーマン・リターンズ><マイアミ・バイス><トランス・アメリカ><太陽>

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第42回目の心ぴくです。
今回見た映画は、体調を壊していたので、ぐっと少なく「ザ・フォッグ」「トランス・アメリカ」「スーパーマン・リターンズ」「マイアミ・バイス」「グエムル−漢江の怪物−」「太陽」「X-MEN:ファイナル ディシジョン」の7本です。

「ザ・フォッグ」
1970年代のジョン・カーペンター作品のリメイク。カーペンター作品よりも謎を明かしすぎている為に、よくある復讐ものになってしまった。普通の幽霊映画。

「グエムル−漢江の怪物−」
期待しすぎたせいか、監督の生真面目さばかり目立っているような感じがしました。まるでこれは只の怪物映画ではない、社会批判なんだと絶えず言い聞かされているような映画。だから映画全体を通した怪物の疾走感は描かれてなく、面白そうになるたびに、いわゆる人間ドラマが描かれ、こちらがノッテきたと思うたびに肩透かしを食わされる、そんな印象でした。面白いシーンも沢山あったのでたいへん惜しい作品になっていたと思うのですが・・・。怪物映画を見ながら<三丁目の夕日>のような人間ドラマも合わせて見たい人(?)にはもしかしたらお薦めかもしれません。

「X-MEN:ファイナル ディシジョン」
まさに映画とは監督のこだわりが優劣を決めるものだと証明しているような作品。
前2作のX-MENが傑作に見えます。監督が交代したこの作品は、前2作にあった登場人物達の深い悲しみなどどこにも無く、薄っぺらな感情表現と、まるでテレビムービーみたいな映像とBGMで映し出される平板な超人たちの戦いの連続する映画でした。派手に展開すればするほどアクビがでました。もしかしたらアメリカのテレビムービーファンなら好きになるかもしれません。そんな作品です。

ということで今回の心ぴく作品は「スーパーマン・リターンズ」「マイアミ・バイス」
「トランス・アメリカ」「太陽」
の4本になりました。

「スーパーマン・リターンズ」
X-MEN1・2の監督ブライアン・シンガーのこだわりの詰まった傑作です。
X-MEN:ファイナル ディシジョンになかったものが全部ここにあります。堂々とした広がりがある映画ならではの映像と、登場人物をしぼって人間性を掘り下げた演出でストーリーを組み立てています。敵は只一人、人間のレックス・ルーサーだけなのにハラハラドキドキの連続はまさに職人芸です。優秀な監督が皆そうであるようにブライアン・シンガーは主人公(スーパーマン)にほれ込み一番魅力的に見える演出を行っています。
当然ソレが出来ない監督の作品は失敗作になるのですが・・。
ラストの、海のシーンとスーパーマンが最後の力を振り絞る所のかっこよさは誰もが童心に帰って興奮すること請け合いです。とにかく面白いから見てください。お勧めの映画です。

「マイアミ・バイス」
サム・ペキンパー今はなく、ウォルター・ヒルは過去の人になってしまっている現在、私の大好きなアクション専門の監督は消え去ってしまったと嘆いていた今日この頃、どっこい専門の監督が生き残っていました。<ヒート><コラテラル>のマイケル・マンです。彼がまたまたやってくれました。麻薬組織の狙撃者が持つ対戦車ライフルの凄まじい描写。潜入捜査官のコンバットシューティングシーンの緊迫感、特に女性捜査官の人質奪還シーンの物凄さ、こんなカッコイイシーンは久しぶり。ラストのほとんど現代版<OK牧場の決闘>シーンの渋さとリアルさ。なにもかも70年代アクション映画ファンの私を唸らせる演出の連続でした。マイケル・マンすごい。これからも、この監督の作品というだけで、面白いと信用できる映画が見られると思うとうれしくなりました。そんなアクション映画の傑作です。スタローン、シュワルツェネッガーが出てくる前。マックイーン、コバーン、ブロンソンの映画がここにあります。
傑作です。

「トランス・アメリカ」
重喜劇の傑作です。性同一障害の為、一週間後に性転換手術をする予定の男と、その男が昔一回だけセックスをして生まれた子供、現在は17歳になった息子との奇妙なロードムービーです。主人公のその男を女優が演じているというのも珍しいのですが、その女優がはまっていて素晴らしく、股間に作り物の男のものをつけての演技には脱帽させられました。
映画の後半で、息子がその女装した男が自分の本当の父親だと知り、非難するのですが、その息子も家出をして男娼をやって暮らしていたという設定で、出てくる登場人物全てがどこかアウトサイダー的な雰囲気をかもし出し、それが逆に人間が本来持っていた自由を体現しているようで、安っぽいお涙頂戴になりそうな設定が、妙に突き抜けた庶民の人間賛歌映画になっていて見ていて嬉しくなりました。私の好きな今村昌平監督の、庶民を主人公にして人間全般の業のようなものまでも愛しいものとして歌い上げる重喜劇を思い出し、アメリカのインデペンデント系映画の底力を見せ付けられ羨ましくなりました。薄っぺらなハリウッド映画ばかりじゃないのです。それにひきかえ我が日本の若手の、アニメばかり見て育ってきた、ハリウッド的監督たちには絶対重喜劇は撮れないだろうと悲しい気持ちにもなりました。そんなことまで考えさせてくれる羨ましい傑作映画です。お薦めです。

「太陽」
太平洋戦争終結の数日間の昭和天皇の行動を描いたロシア人監督の作品です。
あくまでもフィクションとして自由に、監督の発想に任せて作られた作品で、この作品を見て事実と違うと非難するのは的外れのような気がします。あるひとりのエンペラーの行動を追ったフィクション映画だとみれば非常に面白く、イッセー尾形の一人舞台の豪華版としても楽しめる作品になっていました。それに作家性に溢れたこれぞ映画という演出方法は、テレビ的な近頃の映画とは全然違う、間というものが多用された昔のソ連やポーランドの映画を見たときの感覚が思い出され、懐かしくも嬉しい気持ちになりました。おそらく感想は見た人、一人一人が違うものになりそうな、そんな考える余白が沢山ある映画だと思います。
いや余白こそが本来映画が持っていた特性だと、私が忘れていたことを思い出させてくれた、そんな傑作映画です。

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<プルートで朝食を><サイレント・ヒル><蟻の兵隊> 

<プルートで朝食を><サイレント・ヒル><蟻の兵隊> 

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第41回目の心ぴくです。
今回見た映画は「ウルトラヴァイオレット」「ゲット・リッチ・オア・ダイ・トライン」「猫目小僧」「レイヤーケーキ」「プルートで朝食を」「サイレント・ヒル」「ディセント」「2番目のキス」「M:i:。」「ローズ・イン・タイドランド」「パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト」「蟻の兵隊」の12本です。

「ウルトラヴァイオレット」
ガンカタの傑作<リベリオン>の監督作。期待しすぎたせいか、リベリオンから熱い男の復讐劇のロマンと、ガンカタのうんちくの面白さを引いたような映画になっていたように思う。ジョヴォヴィッチがお好きな方どうぞ。

「ゲット・リッチ・オア・ダイ・トライン」
アメリカの人気ラッパーの半生をその本人に主演させ<父の祈りを>の名匠ジム・シェリダンが監督した作品。ラスト近くまで傑作の雰囲気が漂っていたがラストがアクション映画のようになってしまった。クライムアクションを見る気で行けばいいかも。

「猫目小僧」
楳図かずおの原作漫画のファンだったので見に行った。
特撮がとてもチャチだったがまるで昔の化け物屋敷に実験演劇を混ぜたような雰囲気がよかった。漫画の猫目小僧の雰囲気も壊れてなく、もう少しお金をかけたパート2が見てみたくなった。

「レイヤーケーキ」
佳作<ロック・ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ>のプロデューサー第一回監督作らしい。全ての演出は<ロック〜>より劣るがそれなりに面白く最後まで見せる映画。

「プルートで朝食を」
大好きな監督ニール・ジョーダンの最新作。やはり傑作です。
性同一障害の若者の目から見た北アイルランドの紛争が、日常の延長線上で描き出されていて面白い。
乾いたタッチが心地よくラストも過度に感傷的にならず爽やかです。北アイルランド紛争の実態に少しでも知って興味を持っていれば面白さは倍化します。でも難しい話ではなくて母親探しの旅が基本的なストーリーなので、万人が楽しめるお薦めの傑作です。心ぴく映画決定です。

「サイレント・ヒル」
ゲームの映画化らしいが、気に入った映画<ジェボーダンの獣>の監督作なので見に行った映画。やはり前作同様、絵作りが素晴らしく最後まで一気に見せる手腕は見事です。途中で出てくる怪物の造形や演出が監督のこだわりを良いほうに出して目を見張るシーンの連続になっています。
ラストの<ヘルレイザー>を思わせる大殺戮絵巻も伏線が効いていて納得の心ぴくシーンになっています。
本当に優れた監督はジャンル関係なくいい作品を作りますが、この監督クリストフ・ガンズにもそんな匂いがします。次回作はリアルな話を期待してしまう、そんな名匠になるかもしれない監督の傑作ホラーです。心ぴく決定。

「ディセント」
この監督も前作<ドッグ・ソルジャー>が面白かったので見に行きました。
やはりラストまで一気に見せる腕は衰えていませんでした。演出も良いです。ただ前作同様無理な設定を強引に押し通すストーリーが輪をかけてすごいことになっていて、まあホラー設定としては良いのでしょうが口あんぐりと言う気持ちにもなりました。実力がある監督なので是非とも次回作は脚本を練りこんでほしいものです。期待の監督です。

「2番目のキス」
大好きなファレリー兄弟<愛しのローズマリー>の新作です。大リーグ・レッドソックス狂の男と、キャリアウーマンとの恋の行方を追っていきます。最後まで面白く見られますが、ファレリー兄弟の破壊的ギャグは影を潜めソフトな印象になっています。デートムービーには最適です。男性も楽しく見られるお薦め作です。

「M:i:|||」
一作目は最高の面白さ。2作目は・・・。そして3作目は、そこそこの面白さでした。
お気に入りの俳優フィリップ・シーモア・ホフマンが敵役というので期待したのですが思ったより個性が発揮されていないように感じました。しかし近頃アクション映画を見て思うことですが、画面を見ていて何を映しているのか分からなくなるシーンがあるということです。
この映画でもヘリコプターバトルのシーンがそれで、私が年とともに画面のスピードについていけなくなったかもしれないことを差し引いても、やはりアクション演出が下手になってきたと思うのですがどうでしょうか。まるでカメラを振り回していればスピード感が出ると勘違いしているのではないかと思うほどです。やはりアクションは細かい効果的なカットの積み重ねでスピード感を出す職人技が大事だと思うのですが・・・。
そんなことを考えさせてくれる作品でした。

「ローズ・イン・タイドランド」
これもお気に入りのテリー・ギリアム監督の最新作。不思議の国のアリスをモチーフに描いた現代劇。少女が醸し出す雰囲気の危うさや、周りの登場人物たちの狂気があまりにもすごく、笑うに笑えない<悪魔のいけにえ>的領分にまではみ出した演出は悪夢のように一度見たら忘れられない。うーむ、もしかしたら大傑作かも・・。そんな映画です。
興味がある方どうぞ。見たあとの気分の保障はいたしませんのであしからず。

「パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト」
軽いお化け屋敷の世界観は1作目と同じ。出だしはタルイけど化け物が活躍しだすと面白くなる。2時間半は少し長いかな。そしてラストが・・・あ〜あ。3作目でセットとCGを使いまわす気だな。さすが商売上手のプロデューサー、ジェリー・ブラッカイマー。恐るべし。

というわけで第41回目の心ぴく映画は「プルートで朝食を」「サイレント・ヒル」そしてこの…

「蟻の兵隊」です。
ドキュメント映画の傑作です。
戦争の実態がこの映画を見れば全て分かるといっても過言ではないでしょう。
戦争に行くのはテレビや漫画のヒーローではなく生身の人間。隣近所の普通の人、つまり日常に生きる自分自身が、人殺しの現場に行かされるのです。そこには人が人を殺す地獄しか存在しません。正義のためとか、国を守るためとか、そんな偽善はすぐに吹っ飛び、殺人マシーンにならなくては生き残れない人間が存在するだけです。現在80歳のこの映画の主人公、元日本兵、奥村和一さんがその口によって殺人マシーンという言葉を使い語る、日本軍の新兵教育の一環としてやらせる行為には慄然とさせられます。
奥村さんは中国国民党と、ある日本軍司令官との密約によって終戦後国民党のために戦うように残された2600人の日本兵の一人でした。その後5年戦い4年間共産党の捕虜になり過酷な労働に耐えた後、昭和29年にやっと日本に帰ることが出来たのです。しかしボツダム宣言違反を恐れた日本政府は、彼らを組織的に残したのではなく、勝手に残った残留兵として日本軍とは何の関係もないと軍人恩給さえ渡さなかったのです。戦後生き残るために必死だった彼らは定年を迎えてやっと生き残った残留兵の名誉と真実を明らかにするために裁判に訴えたのです。その裁判はもう5年以上続いていて、国会への申し立てから合わせると15年以上になるということです。
私は映画を見るまでこの事実を全然知りませんでした。ほとんどの人がそうでしょう。
今の浮かれたテレビで流すニュースのほとんどは、視聴率がとれるというテレビ局のお足に直結する三面記事的なセンセーショナルな情報だけですから・・。その足元で旧日本の悪法(治安維持法に道を開く様なもの)が成立させられようとしている雰囲気を何となく感じるだけです。しかしなんとなくの結果出現する世界のあまりの恐ろしさに慄然とさせられます。思考停止の国民が流された結果の世界をこの映画は分からせてくれます。いまこそ語らなくてはいけないと、奥村さんは自分が新兵のときに殺した中国人がいた村に、その時の実態を知りたいと自分の過去を明らかにして聞いて回るのです。
その時の奥村さんの、ふとした会話の中で出現する心の奥底に洗脳により残された殺人マシーンとしての表情が、人間のどうしても越えられない業のようなものを映し出し、戦争が人間の肉体ばかりでなく精神もボロボロにしてしまう絶対悪だと気付かされるのです。
この映画は感動などという言葉が軽く聞こえるほどの胸揺さぶられるシーンに満ちています。本当の人間の素晴らしさと底知れぬ醜さを肌で感じる作品です。全ての日本人に今こそ見てほしい傑作です。

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