第41回目の心ぴくです。
今回見た映画は「ウルトラヴァイオレット」「ゲット・リッチ・オア・ダイ・トライン」「猫目小僧」「レイヤーケーキ」「プルートで朝食を」「サイレント・ヒル」「ディセント」「2番目のキス」「M:i:。」「ローズ・イン・タイドランド」「パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト」「蟻の兵隊」の12本です。
「ウルトラヴァイオレット」
ガンカタの傑作<リベリオン>の監督作。期待しすぎたせいか、リベリオンから熱い男の復讐劇のロマンと、ガンカタのうんちくの面白さを引いたような映画になっていたように思う。ジョヴォヴィッチがお好きな方どうぞ。
「ゲット・リッチ・オア・ダイ・トライン」
アメリカの人気ラッパーの半生をその本人に主演させ<父の祈りを>の名匠ジム・シェリダンが監督した作品。ラスト近くまで傑作の雰囲気が漂っていたがラストがアクション映画のようになってしまった。クライムアクションを見る気で行けばいいかも。
「猫目小僧」
楳図かずおの原作漫画のファンだったので見に行った。
特撮がとてもチャチだったがまるで昔の化け物屋敷に実験演劇を混ぜたような雰囲気がよかった。漫画の猫目小僧の雰囲気も壊れてなく、もう少しお金をかけたパート2が見てみたくなった。
「レイヤーケーキ」
佳作<ロック・ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ>のプロデューサー第一回監督作らしい。全ての演出は<ロック〜>より劣るがそれなりに面白く最後まで見せる映画。
「プルートで朝食を」
大好きな監督ニール・ジョーダンの最新作。やはり傑作です。
性同一障害の若者の目から見た北アイルランドの紛争が、日常の延長線上で描き出されていて面白い。
乾いたタッチが心地よくラストも過度に感傷的にならず爽やかです。北アイルランド紛争の実態に少しでも知って興味を持っていれば面白さは倍化します。でも難しい話ではなくて母親探しの旅が基本的なストーリーなので、万人が楽しめるお薦めの傑作です。心ぴく映画決定です。
「サイレント・ヒル」
ゲームの映画化らしいが、気に入った映画<ジェボーダンの獣>の監督作なので見に行った映画。やはり前作同様、絵作りが素晴らしく最後まで一気に見せる手腕は見事です。途中で出てくる怪物の造形や演出が監督のこだわりを良いほうに出して目を見張るシーンの連続になっています。
ラストの<ヘルレイザー>を思わせる大殺戮絵巻も伏線が効いていて納得の心ぴくシーンになっています。
本当に優れた監督はジャンル関係なくいい作品を作りますが、この監督クリストフ・ガンズにもそんな匂いがします。次回作はリアルな話を期待してしまう、そんな名匠になるかもしれない監督の傑作ホラーです。心ぴく決定。
「ディセント」
この監督も前作<ドッグ・ソルジャー>が面白かったので見に行きました。
やはりラストまで一気に見せる腕は衰えていませんでした。演出も良いです。ただ前作同様無理な設定を強引に押し通すストーリーが輪をかけてすごいことになっていて、まあホラー設定としては良いのでしょうが口あんぐりと言う気持ちにもなりました。実力がある監督なので是非とも次回作は脚本を練りこんでほしいものです。期待の監督です。
「2番目のキス」
大好きなファレリー兄弟<愛しのローズマリー>の新作です。大リーグ・レッドソックス狂の男と、キャリアウーマンとの恋の行方を追っていきます。最後まで面白く見られますが、ファレリー兄弟の破壊的ギャグは影を潜めソフトな印象になっています。デートムービーには最適です。男性も楽しく見られるお薦め作です。
「M:i:|||」
一作目は最高の面白さ。2作目は・・・。そして3作目は、そこそこの面白さでした。
お気に入りの俳優フィリップ・シーモア・ホフマンが敵役というので期待したのですが思ったより個性が発揮されていないように感じました。しかし近頃アクション映画を見て思うことですが、画面を見ていて何を映しているのか分からなくなるシーンがあるということです。
この映画でもヘリコプターバトルのシーンがそれで、私が年とともに画面のスピードについていけなくなったかもしれないことを差し引いても、やはりアクション演出が下手になってきたと思うのですがどうでしょうか。まるでカメラを振り回していればスピード感が出ると勘違いしているのではないかと思うほどです。やはりアクションは細かい効果的なカットの積み重ねでスピード感を出す職人技が大事だと思うのですが・・・。
そんなことを考えさせてくれる作品でした。
「ローズ・イン・タイドランド」
これもお気に入りのテリー・ギリアム監督の最新作。不思議の国のアリスをモチーフに描いた現代劇。少女が醸し出す雰囲気の危うさや、周りの登場人物たちの狂気があまりにもすごく、笑うに笑えない<悪魔のいけにえ>的領分にまではみ出した演出は悪夢のように一度見たら忘れられない。うーむ、もしかしたら大傑作かも・・。そんな映画です。
興味がある方どうぞ。見たあとの気分の保障はいたしませんのであしからず。
「パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト」
軽いお化け屋敷の世界観は1作目と同じ。出だしはタルイけど化け物が活躍しだすと面白くなる。2時間半は少し長いかな。そしてラストが・・・あ〜あ。3作目でセットとCGを使いまわす気だな。さすが商売上手のプロデューサー、ジェリー・ブラッカイマー。恐るべし。
というわけで第41回目の心ぴく映画は「プルートで朝食を」「サイレント・ヒル」そしてこの…
「蟻の兵隊」です。
ドキュメント映画の傑作です。
戦争の実態がこの映画を見れば全て分かるといっても過言ではないでしょう。
戦争に行くのはテレビや漫画のヒーローではなく生身の人間。隣近所の普通の人、つまり日常に生きる自分自身が、人殺しの現場に行かされるのです。そこには人が人を殺す地獄しか存在しません。正義のためとか、国を守るためとか、そんな偽善はすぐに吹っ飛び、殺人マシーンにならなくては生き残れない人間が存在するだけです。現在80歳のこの映画の主人公、元日本兵、奥村和一さんがその口によって殺人マシーンという言葉を使い語る、日本軍の新兵教育の一環としてやらせる行為には慄然とさせられます。
奥村さんは中国国民党と、ある日本軍司令官との密約によって終戦後国民党のために戦うように残された2600人の日本兵の一人でした。その後5年戦い4年間共産党の捕虜になり過酷な労働に耐えた後、昭和29年にやっと日本に帰ることが出来たのです。しかしボツダム宣言違反を恐れた日本政府は、彼らを組織的に残したのではなく、勝手に残った残留兵として日本軍とは何の関係もないと軍人恩給さえ渡さなかったのです。戦後生き残るために必死だった彼らは定年を迎えてやっと生き残った残留兵の名誉と真実を明らかにするために裁判に訴えたのです。その裁判はもう5年以上続いていて、国会への申し立てから合わせると15年以上になるということです。
私は映画を見るまでこの事実を全然知りませんでした。ほとんどの人がそうでしょう。
今の浮かれたテレビで流すニュースのほとんどは、視聴率がとれるというテレビ局のお足に直結する三面記事的なセンセーショナルな情報だけですから・・。その足元で旧日本の悪法(治安維持法に道を開く様なもの)が成立させられようとしている雰囲気を何となく感じるだけです。しかしなんとなくの結果出現する世界のあまりの恐ろしさに慄然とさせられます。思考停止の国民が流された結果の世界をこの映画は分からせてくれます。いまこそ語らなくてはいけないと、奥村さんは自分が新兵のときに殺した中国人がいた村に、その時の実態を知りたいと自分の過去を明らかにして聞いて回るのです。
その時の奥村さんの、ふとした会話の中で出現する心の奥底に洗脳により残された殺人マシーンとしての表情が、人間のどうしても越えられない業のようなものを映し出し、戦争が人間の肉体ばかりでなく精神もボロボロにしてしまう絶対悪だと気付かされるのです。
この映画は感動などという言葉が軽く聞こえるほどの胸揺さぶられるシーンに満ちています。本当の人間の素晴らしさと底知れぬ醜さを肌で感じる作品です。全ての日本人に今こそ見てほしい傑作です。
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